更新日: 2020.04.06 遺言書

相続法改正で自筆証書遺言の要件が緩和! 何がどう変わる?

相続法改正で自筆証書遺言の要件が緩和! 何がどう変わる?
2018年7月6日に民法が大幅に改正されました。誰もがいずれはかかわることになる「相続」に関することは、「民法」の中の「相続法」に定められています。相続法の大規模な改正は約40年ぶりとなります。
 
今回の改正によって何が変わったのかなどを解説し、どのような場面で活用できるかを考えていきます。第1回目は「自筆証書遺言」の要件緩和についてお伝えします。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

遺言書の種類

遺言書には普通の方式によるものとして「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります(特別な方式による遺言もありますが、ここでは触れません)。
 
「自筆証書遺言」は文字どおり、自分で書く遺言書のことです。遺言者がすべて自筆で本文・日付・氏名を自書し、署名・捺印する必要があります(今回改正された点は後述します)。
 
「公正証書遺言」は、公証役場で証人2人とともに公証役場に行って作成するもの。遺言者が入院しているなどの理由で外出できないような場合には公証人に出張してもらうこともできます。
 
すべて自筆する必要はなく、遺言者が語った内容を公証人が文字に起こし、確認して作成することも可能です。公証人が作成しますので要件に不備がなく裁判所の検認も必要ありません。
 
「秘密証書遺言」は、遺言者が書いた遺言書を誰にも内容を知られないまま公証役場で保管するものです。
 
自筆である必要はありませんが、遺言者が署名・捺印し、封をしたうえ遺言書と同じ印鑑で封印し、証人2人の立ち合いの上、公証役場に預けます。
 
遺言者は遺言の内容を秘密にできますが、様式のチェックも受けないため、開けてみたら要件を満たしておらず無効になるという可能性もあります。

遺言書の要件

ここでいう要件というのは、法的に効力を発生するために必要な条件のことです。
 
全ての遺言書について備えていなければいけない要件は、
・遺言時に15歳以上であること
・遺言者に意思能力があること
の2つです。
 
認知症などになってしまうと遺言書を書いても有効とは認められなくなってしまいます。

自筆遺言証書の要件緩和

今回の改正では、自筆証書遺言の様式が緩和されました。
 
自筆証書遺言は遺言者がすべて自筆で本文・日付・氏名を自書する必要があり、財産目録などについても自筆で書く必要がありました。
 
今回の改正で遺言書の本文は従来どおり自筆で書く必要がありますが、相続財産の目録を添付する場合はパソコンで作成・印刷したものや代筆のほか、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを目録として添付できるようになりました。
 
ただし、偽造防止のためすべてのページに署名・押印が必要です。2019年1月13日以後の遺言から適用が始まっています。

自筆証書遺言の要件

自筆証書遺言についても先に挙げた、遺言書の要件、すなわち遺言者が15歳以上であり、意思能力があることが必要なのは当然です。
 
今回の要件緩和を踏まえ、自筆証書遺言の要件は
 
・全文が自書されたものであること
(今回の改正で添付する目録についてのみ要件緩和)
・作成した日付が記載されていること
(年月しか入っていないものや○月吉日のような記載は無効)
・遺言者本人の名前が記載されていること
・遺言者の印が押されていること
・文面を加筆・修正など変更する場合は、その場所を指示し、これを変更したことを付記したうえで署名押印してあること
・財産目録を添付する場合はすべてのページに署名押印すること
(表裏に記載している場合は両面とも)

 
ということになります。
これらの様式を満たしていれば自筆証書遺言は有効です。
 
ただし、遺言書に記載されている内容が平易に理解できなければ、相続人の間で解釈が変わってしまうこともありえます。難解なものやあいまいなものは避けなければなりません。
 
また、「相続させる」と「遺贈する」などのように法的効力がまったく異なる表現もありますので、言葉の使い方にも注意が必要です。

要件緩和によって何が変わるか

遺言書を書く場合、「全財産を妻である○○(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる」と記載するような単純なものもありますが、一つひとつの財産について個別に相続する人を指定するものもあります。
 
個別にそれぞれの資産について複数の相続人を指定する場合には、財産の目録の作成は必要不可欠です。余談ですが、遺言者に相続が発生した場合、法定相続人が配偶者だけ、あるいは配偶者と兄弟姉妹だけの場合は上記のような単純な遺言書で問題ありません。
 
兄弟姉妹には遺留分がないため、全ての財産を配偶者に相続させることができます。配偶者のほかに子などが相続人になる場合にはこの単純な遺言書はお勧めできません。子には遺留分があり、もめる可能性があります。
 
話を戻しましょう。
自筆証書遺言は遺言者本人に判断能力があり、元気な時に書くものだといえます。当然、書いた後も生活を続けていれば財産に変動があり、時間の経過によって書いた内容が本人の意にそぐわなくなるということもあり得ます。
 
遺言書は日付が新しいものが優先されます。状況が変われば書き直すこともあるでしょう。そうしたときに全て自筆でなければならないというのでは非常に面倒です。
 
目録書を作成する場合、その財産を特定できることが必要です。金融機関であれば銀行や証券会社、口座種類や口座番号などが必要になります。複数の金融機関に口座を持っている場合も多いでしょう。
 
株式などの有価証券では○○社株式△△株などと記載することもあるでしょう。不動産の場合は所在地や種類、面積や構造など、登記事項証明書に記載されている内容を書く必要があります。
 
資産内容を全て手書きで書くとかなりのボリュームになり、相当な手間になることもあります。これでは、遺言書を書くことが面倒で書かないこともあるでしょうし、誤字などによって遺言書の一部が有効に機能しないようなことにもなりかねません。
 
目録を自筆しなくてもよくなることで、こうした問題が少なくなるでしょう。表計算ソフトなどで資産リストを作り、それを打ち出せば目録に使えるということになります。

まとめ

今回の改正による自筆証書遺言の要件緩和によって自筆証書遺言がより身近なものになったといえるでしょう。
 
さらに、2020年7月10日からは法務局での自筆遺言証書の保管制度が始まります。このコラムでは詳細は触れませんが、より確実に自分の意思を遺される家族などに伝える手段が増えます。
 
遺言書は相続でもめないための非常に有効な手段です。残念ながら書いてあればもめないというわけではありませんが、書かなかったためにもめてしまう相続が減るのではないかと思います。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役

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