更新日: 2019.06.28 その他相続
夫が急逝、持ち家に妻が一人残された場合、相続はどうなる?
執筆者:飯田道子(いいだ みちこ)
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
金融機関勤務を経て96年FP資格を取得。各種相談業務やセミナー講師、執筆活動などをおこなっています。
どの金融機関にも属さない独立系FPです。
相続および相続人について知る
例えば、子供や孫のいない夫婦ならば、夫が急逝したら財産はすべて妻が相続するものと思うかもしれません。しかし、法律というのは、思いがけない人に財産が渡るような仕組みになっています。
民法では、配偶者は必ず相続人になります。ただし、その他にも「法定相続人」といって、法律に定めた相続人が存在します。
「法定相続人」には、第1順位から第3順位までの3つの順位があります。第1順位は「子および代襲相続人」、第2順位は「両親などの直系尊属」、第3順位は「兄弟姉妹および代襲相続人」となっています。
つまり、遺産は配偶者と、この中の「誰か」が相続することになります。相続する場合には、順番に全員が相続するのではなく、順位の高い人が相続します。
第1順位の人が存命の場合には、第2順位や第3順位の人には相続する権利がありません。子供や孫のいない夫婦では、第1順位に該当する人がいないため、第2順位の両親や直系尊属である祖父母と相続します。
さらに、第2順位に該当する人物がいない場合には、第3順位の兄弟姉妹や兄弟姉妹の子どもが相続することになっています。
相続できる財産は法定相続分として決まっている
相続では、相続できる順位とともに、法定相続人それぞれに「法定相続分」といって相続できる財産の割合が決められています。
配偶者と子ども(第1順位)が相続人の場合は、配偶者2分の1・子ども2分の1。配偶者と直系尊属(第2順位)が相続人の場合は、配偶者3分の2・直系尊属3分の1。配偶者と兄弟姉妹(第3順位)が相続人の場合は、配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1と定められています。
例えば、子供や孫のいない夫婦の夫が急逝し、夫の財産である6000万円の持ち家を相続する場合を考えてみましょう。
このケースでは、法定相続人の第1順位である子どもがいないため、第2順位から適用。配偶者である妻の相続分は6000万円の3分の2で4000万円分。両親や祖父母が、3分の1の2000万円分を相続することになります。
第3順位の兄弟姉妹や、兄弟姉妹の子どもと相続するときには、妻の相続分は6000万円の4分の3で4500万円分。兄弟姉妹や兄弟姉妹の子どもが、4分の1の1500万円分を相続する決まりです。
つまり、法定相続の場合、子供や孫のいない夫婦の妻は単独で相続することができないということになります。
遺言書を作成し、配偶者である妻を守る
夫に複数の財産がある場合には、それぞれの法定相続分をカバーし、持ち家を妻に残すことができるかもしれません。
しかし、財産が持ち家のみで、法定相続人との交渉が決裂した場合、最悪、持ち家を売却して財産を分け合うことになりかねません。妻は自宅を失うことになるのです。
そのような悲劇を生まないためには、夫が元気なうちに遺言書を作成し、必ず妻が相続できるように備えておくことが必要です。
もっともトラブルになりやすいのは、第3順位である兄弟姉妹や兄弟姉妹の子どもが相続する場合です。相続では遺留分といって、どのような内容の遺言書が書かれていても、法定相続分の2分の1は相続できるという法律があります。
しかし、第3順位に遺留分はありません。遺言書を作成すれば、確実に妻に持ち家を残すことが可能になります。早めに遺言書の作成に取りかかることをおすすめします。
人間は生身であり、相続はある日突然に発生することも多々あります。家族間で揉めそうな気配があるなら、早めに対策を講じることが大切でしょう。生前から余計な波風を立てないような親戚付き合いを心がけることも、残された家族のためには必要です。
執筆者:飯田道子(いいだ みちこ)
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会