更新日: 2019.06.28 相続税

不動産の活用が有効な相続税対策になる

不動産の活用が有効な相続税対策になる
相続税対策の大きな柱の一つは、やはり不動産の有効活用です。
 
生前贈与はあらかじめ後の世代で資産を移転し、資産総額を減らす方法ですが、不動産の活用は相続資産の評価額を下げていく方法で、どちらも相続税対策として効果があります。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

現金よりも不動産が有利な理由

現金や銀行預金で保有するよりも不動産で保有することが有利なのは、評価額の違いにあるためです。例えば、1億円の現金は、相続時には1億円としてそのまま評価されますが、1億円で購入した土地は、通常でも2割減の8千万円程度の評価になります。
 
土地の利用方法によってはさらに評価額は下がります。相続時に現金で保有していると、それだけ多くの相続税がかかってしまうために、とても不利になります。
 
不動産の評価額が低くなるのは、現預金と違って「流動性が低い」ためです。簡単に土地の売買が出来るわけではなく、現預金に比べて非常に使い勝手が悪いためにほかなりません。
 
そのため、現預金を減らして土地などの不動産を所有する場合でも、「将来値下がりしてしまう」「売りにくい不動産を購入した」ということであれば、相続自体には問題はなくても、結果的には悪い買い物をして資産を大きく減らしてしまう危険もあります。不動産の購入には、細心の注意も必要です。
 

小規模宅地等の減税特例を生かす

自宅の土地を相続する際、一定の条件を満たしていると、相続税が80%減額される制度があります(アパートなどの貸付地は50%)。まず、この減税特例を受けることが出来れば、相続税は通常の20%分の支払いで済むため、非常に効果的です。
 
この制度の趣旨は、相続財産が少なく土地と建物に限られていると、相続の発生により相続税が払えず、遺族がこれまでの家に住めなくなることを防ぐ目的でつくられました(図表参照)。
 

 
この適用を受けるためには、配偶者や同居している親族、持ち家のない別居している親族が、自宅の土地を相続する場合に適用されます。しかし、この制度の適用を受けるために、別居して自宅を所有する人が、その名義を子どもや資産管理会社に変更して、家を所有していない形をつくり、この特例の適用を受け相続税を減額しようとする、度を超えた節税行為が増加しました。
 
そのため2018年以降は、別居している親族が所有する自宅の名義変更などをして「家なき子」状態をつくり出す行為を厳しく制限するようになりました。配偶者の分を含め、相続が発生する3年以内に持ち家を所有している場合や、居住する自宅を子に贈与したり、管理会社に譲渡したりすると、小規模宅地等の減税特例を受けられなくなりました。
 
この特例を受けることができるか、まずその条件を確認する必要があります。配偶者の相続に関しては、この特例を利用するまでもなく有利な条件がありますが、単身の親が住んでいた自宅を子が相続する場合、他に持ち家がないかどうか、この特例が受けられる条件を満たしているか、十分に確認しておく必要があります。
 
相続発生直前になって無駄な小細工をしても、結局は節税にならないことも肝に銘じておくべきでしょう。
 

土地の評価を下げる工夫

現金や銀行預金などの金融資産で持つよりは、同じ金額でも不動産で保有したほうが、相続税の評価額は下がります。その意味では多額の金融資産を保有している一部を、土地などの不動産で保有することは、相続税を減額する意味では効果的です。さらに、所有した土地にアパート等の貸家をつくれば貸家建付地となり、さらに20%程度土地の評価額は下がります。
 
しかし、この方法が節税対策に効果的だと金融機関と住宅メーカーが目をつけ、土地所有者に対して積極的に融資をして賃貸アパートなどを建設させ、大きな社会問題になりました。ニーズが伴わない地域に大量の貸家が供給されても、空き家が増えるだけです。借入れにより多額の負債が発生し、相続税対策どころではない事態も生まれました。
 
金融機関から相続税対策として有効だとセールストークを受け、多額の融資を受け賃貸アパートなどを建設することは、避けたほうが賢明です。すでに貸家・貸間は飽和状態の地域も多く、大きな事業所や大学などが周辺にないかぎり、少子化も進んでいるため、期待が持てないことがはっきりしているからです。
 
少なくとも、金融機関からの融資を受けずに、自己資金で出来る範囲のものをつくり、それにより、土地の評価額を下げ、相続税の節税につなげる姿勢が必要になります。
 

資産の組み換えを検討する

日本では現在、九州全体に匹敵する土地が登記されていないという現実があります。利用しにくい土地、たとえば都市部の狭隘な土地や傾斜地、地方の耕作放棄地や山林は、相続しても登記をしてないケースが多々あります。登記しなければ固定資産税もかからないからです。そのため、近年こうした状態を減らすために「登記の義務化」も検討課題になっています。
 
これまでは任意だった登記が義務化される可能性は高く、親からこうした土地などを継承し名義上所有し登記していない人に対して、固定資産税が課税されると予想されます。そのため、こうした土地をなるべく売却・寄贈などをして、資産自体の組み替えをする必要があります。
 
適当な値段で売却できるものは売却し、流動性の高いマンションなどの不動産に組み替えておくことは、相続税対策になります。子や孫の世代に、利用価値の乏しい課税対象ともなる「負動産」を引き継がせても、プラス面はないと思われるからです。
 
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
 

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