更新日: 2020.04.07 葬儀

お墓に対する意識が大きく変化しています

執筆者 : 黒木達也

お墓に対する意識が大きく変化しています
高齢になるにつれて、先祖の墓を考えるだけでなく、自分のお墓をどうしたいか、について真剣に考えるようになります。
 
従来は先祖代々の墓に入ることが「当たり前」でしたが、最近ではこれが大きく変わっています。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

希薄になる「イエ」に対する意識

こうした意識変化の背景には「核家族化」の進行、子のいない家庭の増加、生まれ故郷への意識の希薄化などが影響しています。
 
核家族化・少子化の進行は、自分の子や孫が「いない」「少ない」人にとっては、高齢になればなるほど、今後は墓を維持していくのが難しいと考えているためです。先祖のために自分が犠牲になり、余計な支払いを避ける意識もあるかもしれません。
 
子どもや孫のいる家族でも、墓はなるべく簡素化したい、と考える人は増えています。これは葬儀に関しても同様で、多くの人を呼ぶ葬式は避け、家族葬などの形式で簡素にする傾向と一致しています。男女別に墓に対する意識をみると、先祖代々の墓に入りたいと考えている男性はそれなりの数はいますが、女性ではこの比率は大きく下がります。
 
「イエ」に対する意識は、女性のほうが希薄になっています。お墓はいらないと考える人も、女性のほうが男性より多く存在します。
 
墓地の形態についても、従来の先祖代々の墓ではなく、自然に還ることを主眼にした樹木葬や散骨といったケースを含め、新しいお墓の形が目立ってきています。従来の家族主義的な先祖代々の墓という志向が減り、個人の自由な発想で墓を考える人が増えている証拠です。
 

「墓じまい」にもコストがかかる

地方出身で都会へ出てきた人の中には、故郷にある先祖代々の墓を何とかしたい、と考える人が急増しています。親がいる間は墓を守っているため問題はありませんが、親が亡くなった後に、帰省しお墓を管理するのは大変だと考えるためです。
 
先祖代々の墓だけではなく、先祖個人の墓、親戚関係の墓など、混然一体となっている墓地もある場合はさらに複雑です。とくに自分たちが高齢となり、子がいないために最後の代になる人にとっては、墓じまいは切実な課題です。何もせずに放置すれば、ゆくゆくは管理不在の荒れ放題の墓になってしまうからです。
 
そのため、生まれ故郷にある墓の「墓じまい」(「改葬」といいます)をして、自分の住まいの近くに移転させようとする人が増えています。しかし、この「改葬」には、それなりのコストがかかります。
 
具体的には、従来の墓石の処理する費用、更地にするための費用、墓から魂を抜くための祭祀の費用、檀家だった寺院に支払う離檀料、各種証明をもらうための事務手続きに関する費用など、100万円程度はかかると思います。
 
地方の寺院は、人口流失により檀家の数が急激に減っており、寺院の運営に苦労しています。そのため運営状態も苦しく、離檀を望まないがために、離檀料だけで100万円を超える法外な額を請求され、トラブルになったケースもあります。ただ寺院墓地ではなく公営墓地の場合、離檀料はかかりません。
 

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これまでの墓とは異なる形態で供養

改葬をした後に、新たに墓地や墓石を購入するには、別途費用がかかります。墓地の購入費だけで、寺院墓地・公営墓地を問わず100~200万円程度はかかります。墓石を購入せず、移送しようとしても移送費もバカになりません。そのために墓地と墓石を購入するのではなく、この機会に、永代供養墓に変更する、墓石のないマンション形式の室内墓苑を選ぶ、といった人が増えています。
 
永代供養墓は、墓地の承継者を必要としないため、子がいない場合や、子や孫の世代で家が続かなくなっても問題はありません。合同墓にするケースが多いようですが、一定期間は単独の墓にすることもできます。
 
また、室内墓苑の場合は納骨という手順がなく、お骨を一定期間預けた施設側に管理してもらう方式です。どちらの形態でも、新たに墓地を購入し墓石を建てるより、コストは安くできます。生まれ故郷の墓を改葬し、こうした方法を選ぶ傾向は今後も増えると思います。
 
お墓選びについてだけでなく、冠婚葬祭については、従来の考えにとらわれることなく、なるべくコストをかけずに簡素化したい、という意識の変化が見てとれます。これは若い世代だけでなく、高齢の世代にも定着しつつあります。
 

負担を減らし自由な発想で墓選び

お墓選びに関しても、「自宅から近い」「比較的安く購入できる」「子の自宅から近い」といった現実的な条件が優先されています。「お墓の面積が広い」「有名な寺院・霊園にある」といった条件では考えない人が多くなっています。そのため、自宅近くの寺院に小規模な墓地を購入する、家族墓ではなく永代供養墓にする、都心にある室内墓苑にする、といった選択が増えています。
 
墓地は風格があり立派な造りより、比較的コンパクトでコストがかからない造形が好まれています。墓石についても、従来の縦長の形にとらわれることなく、横長の形や円形に近い独創的な造りも増えています。
 
墓石に刻む文字も「○○家之墓」という通常のパターンよりも、「寂」「心」「誠」といった気に入った文字だけを刻む墓石も増えています。しかし、一方で、コストは多少かかっても、従来型寺院墓地ではなく、眺めのいい広大な公園墓地を選ぶという自然志向の選択にも、根強い人気があります。
 
埋葬の形態もかなり自由になってきました。墓石の下に納骨するのではなく、最近の傾向として、土に還す、海に還す方式が増えています。
 
しかし、樹木葬の場合でも、ただ木の下に埋めるのは論外で、樹木葬が出来る霊園などに行き許可を取る必要があります。散骨についても、フェリーなどから勝手に撒くことはできず、専門の業者に依頼し決められた場所に散骨する必要があります。
 
変わった例としては、ロケットなどで打ち上げてもらう宇宙葬という形態も生まれています。それぞれ個人のニーズも多様化しており、それに合わせた方法を選ぶことができます。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト

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