就活生の面談で「もっと話を聞きたい」と言われたので“軽く飲みながらの面談”を提案→同僚に「今どきセクハラだよ」と言われビックリ! 就活ハラスメントが“企業に与える損失”と注意点とは?
配信日: 2025.05.15

就活ハラスメントについて、厚生労働省では法改正に向けた動きがあり、先進的な防止策をとる企業もあります。これらを参考にしつつ注意点をまとめます。
目次
蔓延する就活セクハラ。被害は男女を問わず発生
「就活セクハラ」といえば女子学生に対するものがイメージされがちですが、男子学生に対しても「彼女いないの?」といった軽口をたたくようなセクハラなども見受けられます。
厚生労働省の調査によると、受けたセクハラの内容は、「性的な冗談やからかい」「食事やデートへの執拗な誘い」「不必要な身体への接触」などが主なものです(図表1)。
そのほか「性的な内容の情報の流布」や「性的な事実関係に関する質問」などもあり、これらの被害は女性より男性のほうが比率は高くなっています。
就活等セクハラを受けた後の行動として、「何もしなかった」が一番多く25%ほどを占めています。相談先としては「大学のキャリアセンター」「学生相談窓口など」「家族・親戚、友人」などが挙がっています。「企業の採用担当者に相談した」は6.7%に過ぎません。
図表1
厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)「受けた就活等セクハラの概要」
厚生労働省は就活ハラスメント対策に本腰。企業の取り組みも進む
厚生労働省はセクハラとパワハラを合わせて「就活ハラスメント」と定義し、次のような行為を念頭に防止対策に取り組んでいます。
・採用の見返りに不適切な関係を強いる(対価型セクハラ)
・結婚出産後も働き続けるかという質問をする(環境型セクハラ)
・内定者に過大な研修を強いる(パワハラ(過大な要求))
・面接の場で会社上層部や役員が学生に高圧的な暴言を吐く(パワハラ(精神的な攻撃))
対策の一例として、学生と接する採用担当者は可能な限り2名以上とし、オンラインも含め面談やオリエンテーションの際は複数名で対応するなどルールを明確にするよう求めています。
また、各企業の先進的な事例集も公表されています。
厚労省の就活ハラスメント防止対策企業事例集によると、「OB・OG面談時に個室利用を不可とする」「OB・OG訪問用マッチングアプリへの登録を禁止する」、さらに「エントリーシート記載の学生の個人情報の一部を非公開にする」といった取り組みをしているところもあります。
法改正の動き
そもそも、職場におけるハラスメント防止対策は労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法などによって企業に義務付けられており、就活ハラスメントについても防止措置をとることが望ましい取り組みとされていました。
さらに、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会では、就活ハラスメント対策の法改正に向け、就活セクハラの防止を事業主の雇用管理上の措置義務とすること、パワハラについても防止の取り組み推進を図ることなどが検討されています。
就活ハラスメントは企業にも重大な影響
就活ハラスメントは企業にも重大な影響を及ぼします。
直接的な影響は被害に遭った学生が企業への就職意欲をなくすことです。企業は優秀な人材はもちろん、採用に投じた時間もお金も失います。
さらに社会的信用を失い、企業の使用者責任が問われるほか、「不同意わいせつ罪」(刑法176条、6月以上10年以下の拘禁刑)や、「不同意性交等罪」(刑法177条:5年以上の有期拘禁刑)で、ハラスメント行為者に刑事責任が科されることも考えられます。
「経済的な関係や社会的地位に基づく不利益の憂慮を利用する場合」も対象です。応じないと就活で不利になると思わせた場合、強制するような事態がなかったとしても同罪になりえます。
行為者に不法行為による損害賠償責任(民法709条)が問われることは言うまでもありません。
行為者が属する企業にも使用者責任(民法715条)が適用され、損害賠償責任を問われるでしょう。最高裁では、使用者責任は「その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含する」との判例があります。
さらにコンプライアンスが重視される現在、力関係に乗じて人権を踏みにじる会社として、社会的な評価が低下します。取引を控える、ESG投資の観点で投資を控えるといったことで、売上減少や株価下落が十分想定されます。
今年の例でいえば、フジ・メディア・ホールディングスは元タレントによる性加害に対する対応が不十分だったと批判を浴びましたが、個人投資家らの投資もあり2025年上旬時点ではスキャンダル以前よりも株価が高い状態にあります。とはいえ同社のスポンサー離れが顕著だったことは記憶に新しいところです。
大手牛丼チェーンでは2022年4月に幹部が女性を蔑視する発言をし、幹部の解任を発表すると株価は一時4.3%安となり、日中下落幅が1年半ぶりの水準に達したほか、新商品発表会をキャンセルするなど対応に追われました。企業の株価変動、売り上げの増減は多角的な要素で決まるものの、企業の経営に一定程度の打撃を与えることは言うまでもありません。
自社の従業員の働く意欲やモラルにも影響を及ぼし、生産性の低下や貴重な人材の流失のリスクが生じます。
就活ハラスメントを防止するために
先進的な取り組みをしている企業では、採用活動において「公正な採用選考」を重視しています。これは、厚生労働省から事業主に求められているもので、応募者の基本的人権を尊重し、応募者の適性・能力に基づいて選考を行う、というのが基本的な考えです。
本人に責任のないこと(本籍・出生地、家族、住居状況、生活環境)、本来自由であるべき思想・信条などについては尋ねないことなどが定められています。リクルーターは面談を設定する際には十分に配慮するとともに、発言にも注意しましょう。
出典
厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
厚生労働省 就活ハラスメント防止対策企業事例集
厚生労働省 職場におけるハラスメント対策(就活ハラスメント対策)
厚生労働省 会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー