退職予定の同僚が「失業手当がたくさん欲しいから」と、最近よく残業しています。残業と“失業手当”って関係あるんですか? 月給27万円で「残業手当なし・あり」の場合で試算

配信日: 2025.05.11

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退職予定の同僚が「失業手当がたくさん欲しいから」と、最近よく残業しています。残業と“失業手当”って関係あるんですか? 月給27万円で「残業手当なし・あり」の場合で試算
雇用保険の被保険者が失業したときは、一定要件のもと、失業等給付を受給できます。一般に「失業手当」と呼ばれるものは、失業等給付の一つである基本手当のことです。これは次の仕事に就くまでの大切な収入源ですから、離職前におおまかな額を知っておきたいところです。
 
本記事では、基本手当の計算方法、離職前の賃金額や離職理由による給付額の差などについて説明します。

失業給付はどう決まる?

失業等給付には、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付の4種類あり、そのうちの求職者給付は被保険者が失業した際に、失業者の生活の安定を図るとともに求職活動を容易にするために給付される、失業補償機能を持った給付です。この一つに基本手当があります。
 
基本手当は、離職票に記載された賃金をもとに計算されます。具体的には、どのように計算されるのでしょうか?
 

基本手当の計算方法

失業中に受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。 原則、離職の日以前の6ヶ月に毎月決まって支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額である「賃金日額」のおよそ50~80%で、賃金の低い人ほど給付率が高くなります。
 
整理すると、基本手当日額は、次のように計算できます。
 

計算方法

1.「賃金日額」を算出する
2.賃金日額に乗率を掛けて「基本手当日額」を計算する

 
賃金日額の計算式:
賃金日額=離職前6ヶ月間の賃金合計/180
 
基本手当日額の計算式:
基本手当日額=賃金日額×乗率(50~80%)

 
賃金日額の計算に用いる「賃金」には、基本給のほか、家族手当や残業手当、通勤手当など各種手当を含みます。ただし賞与は含みません。
 

給付を受けられる日数はどう決まるか

基本手当の受給可能日数を「所定給付日数」といいます。所定給付日数は、離職時の年齢や離職理由、雇用保険被保険者期間などによって決まります。所定給付日数「90日」の人が、仮に90日を超えて失業していても、受給できるのは90日分のみです。
 

基本手当はいくら?

それでは具体的な条件を設定して、実際に基本手当を計算してみましょう。次の条件の被保険者について、離職前に残業をしなかったケースと残業が多かったケースとを比べてみます。
 

年齢:32歳
離職理由:自己都合
離職前6ヶ月間の賃金(残業手当がない場合):月27万円
被保険者期間:8年
離職前の欠勤等:なし

 

残業しなかった場合

離職前の賃金が毎月27万円だった被保険者の基本手当日額を計算してみましょう。
 
まず賃金日額を求めます。
離職前6ヶ月の賃金総額162万円(27万円×6ヶ月)/180=9000円
よって、賃金日額は「9000円」です。
 
この9000円を図表1の該当する部分(赤枠)の計算式に当てはめて基本手当日額を計算します。その結果、基本手当日額は「5848円」になりました。
 
図表1

図表1

厚生労働省 厚生労働省 雇用保険の基本手当日額の変更~8月1日(木)から実施~
 

残業をしたときの計算例

次に、同じ人が離職前に一定の残業をしていたケースで計算してみます。便宜上、毎月30時間ずつ、6万980円の残業手当が加算され、毎月の賃金が33万980円だったとしましょう。
 
まず賃金日額を求めます。
離職前6ヶ月の賃金総額198万5880円(33万980円×6ヶ月)/180=1万1032円
よって、賃金日額は「1万1032円」です。
 
この人の賃金日額「1万1032円」を、図表1の赤枠の計算式に当てはめると、基本手当日額は「6282円」となります。
 
残業をしなかった場合との差額は、1日につき6282円-5848円で「434円」、90日分の差額は434円×90日で「3万9060円」です。月に6万円以上の残業手当が加算されていた割には、差額が小さいと感じる人も多いでしょう。
 
このことは基本手当日額の計算方法に起因していると考えられます。基本手当日額は賃金日額の50~80%ですが、賃金日額が少ないほど給付率が高くなるからです。
 
それでもやはり、離職前賃金が高いほど基本手当日額も多いことに変わりはありません。
 

離職理由による差異

次に、離職理由による基本手当の差について見ていきましょう。
 
基本手当日額の計算方法は、自己都合退職でも会社都合退職でも同額です。しかし雇用保険被保険者期間や離職理由が異なれば、図表2のように、基本手当の給付日数が変わります。
 
図表2

図表2

厚生労働省 離職されたみなさまへ
 
「基本手当日額が5848円」「被保険者期間が8年」の32歳会社員が自己都合退職をした場合、基本手当の所定給付日数は90日、受給総額は5848円×90日で52万6320円です。
 
同じ人が倒産などにより離職を余儀なくされた場合(特定受給資格者)は、所定給付日数は180日、受給総額は5848円×180日で105万2640円となり、受給総額は自己都合退職のときの倍になり、大きな差がつきます。
 

まとめ

基本手当日額は離職前6ヶ月の賃金をもとに算出され、基本的には支払われた賃金が多額なほど、基本手当日額も高くなります。基本手当を受給できる期間(所定給付日数)は、離職時の年齢や離職理由、被保険者期間に左右されます。
 
2025年4月1日より、自己都合退職の待機期間が短縮され、失業給付が受給しやすくなりました。離職する際は、自分の基本手当受給額をできるだけ把握し、生活の安定を図りながらよりよい就職先を探しましょう。
 

出典

厚生労働省 第13章 失業等給付について
厚生労働省 雇用保険の基本手当日額の変更~8月1日(木)から実施~
厚生労働省 離職されたみなさまへ
 
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士

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