更新日: 2024.02.02 働き方
「業務上ミスが多いわりに定時退社だから減給処分ね」と言われたのですが、ミス以外悪いことはしていませんよね……?
ファイナンシャル・プランナーをしていると、そんな経験のある方から話を聞くことがあります。そこで、業務上のミスと定時退社を理由とした減給処分が有効であるかどうかについて、実際にそのような経験をした方の話を例に考えていきます。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
減給はそう簡単にできないことが基本
遅刻や早退をしているとか、そもそも欠勤しているなど、労働力を提供していないといった状況でもない限り、減給処分は基本的にできないようになっています。減給が認められる例を一つ挙げるとしたら、懲戒処分の一環として行われる場合があります。
一般的に懲戒事由は、就業規則によって定められています。しかし、就業規則に減給事由が定められていたとしても、そこには合理的な理由が必要です。
ここでいう「合理的な理由」に関して、少なくとも、定時退社を毎日繰り返していることを理由とした減給は難しいでしょう。定時退社は悪いことではないからです。
「業務上必要な業務の対応を怠っている」「そもそも勤務中もまともに仕事をしないといった勤務態度も悪く、さらに遅刻も多い」などというような場合はともかく、「通常どおり勤務したうえで定時退社している」という程度であれば、減給は難しいでしょう。その点を考えると、業務上のミスが多いことや定時退社をしていることを理由とした減給処分は難しいといえます。
仮に減給されるとしたら、いくらまで認められるのか
ここで気になることは「万が一、減給が認められた場合には、それがいくらまで認められるか」という点です。
懲戒による減給の場合、1回の減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数回の減給総額は、一賃金支払期(月給など)における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。例えば、1日の賃金が1万円で、月給が20万円の方に対する懲戒処分としての減給は、1回当たり5000円、1ヶ月で2万円を超えてはいけないということになるわけです。
業務上のミスを理由に行う「損害賠償」としての減給は?
業務上のミスは、確かに悪いことです。しかし、それを理由とした減給も、基本的には難しいでしょう。確かに理論的には、業務上のミスで会社に損害があればその補てん、いわゆる「損害賠償」として減給をするのであれば、一定の合理性がありそうです。
しかし実際には、両者は「労働者と会社」という特殊な関係にあるため、全額の賠償をさせることはできません。会社は従業員を雇用して利益を上げているからです。
例えば「会社に100万円の損害が出たから」と、100万円の減給をすることはできません。実際には、会社が施した教育や損害の防止策の程度、保険金などを差し引いた実損害額や従業員の故意過失の程度など、諸般の事情を考慮して決められます。
基本的には、故意や重大な過失で引き起こされたような業務上のミスでない限り、損害賠償としての減給もできないようになっています。
なお損害賠償の額については、あらかじめ定めることは禁止されています。例えば「何か備品を壊したら一律1万円の減給とする」などといったことは、決めてはいけないことになっています。
まとめ
「業務上のミスが多いわりに定時退社をしているから、減給処分にするね」と言われたとしても、減給は容易ではなく、ミス以外に悪いことをしていない現状では、そのミスがよほど大きなものでない限り、減給は法律上有効とはなりません。定時退社を理由としての減給は、なおさら難しいでしょう。
とはいえ、減給処分を過度にちらつかされることは、労働環境としてあまりよいものとはいえません。必要に応じて、さらに上の上長や労働局へ相談したり、転職などを視野に入れたりしてもよいでしょう。
出典
厚生労働省 労働条件・職場環境に関するルール
執筆者:柘植輝
行政書士