更新日: 2023.09.13 働き方

営業担当者として早朝から夜遅くまで働いても「残業代」が出ません。「事業場外みなし」なら仕方ないのでしょうか?

営業担当者として早朝から夜遅くまで働いても「残業代」が出ません。「事業場外みなし」なら仕方ないのでしょうか?
直行直帰の営業担当者なら「事業場外労働のみなし労働時間制」(事業場外みなし)が適用されるものと考えがちですが、それは間違いです。適用の要件は極めて厳格で、訴訟等ではほとんど否定されています。
 
最近はICT技術の活用で、事業場外でも労働時間の把握が容易になっています。本記事では「事業場外みなし」について、要件や事例を紹介します。

「事業場外みなし」には2つの要件がある

労働基準法第38条の2の「事業場外労働のみなし労働時間制」は、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、労働時間の算定が困難な場合に、事業場外労働について「所定労働時間」労働したとみなす制度です。認められるためには、以下の2つの要件が必要です。
 

(1)労働者が事業場外で業務にあたっていること
(2)労働時間の算定が難しいこと

 
直行直帰の営業担当者は事業場外で働いており、(1)の要件には該当しますが、(2)の要件「労働時間の算定が難しいこと」に該当しなければ「事業場外みなし」は適用されません。
 

「労働時間の算定が難しいこと」は限られている

「使用者(会社の管理者等)の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務」では、労働時間の算定が難しいとされます。次の場合は、使用者の指揮監督が及ぶので「労働時間の算定困難」の要件に該当せず、事業場外みなしは適用されません。
 

●グループで事業場外労働に従事、メンバーの中で労働時間管理をする者がいる場合
●スマホなどで、随時会社の管理者等の指示を受けている場合
●事業場で、訪問先や帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

 
直行直帰の営業担当者でも、スマホなどで会社と随時連絡をとっていることは多いでしょう。その場合は「随時、会社の管理者等の指示を受けている場合」に該当し、事業場外みなしの適用はありません。
また、訪問先や帰社時間などの具体的指示を受けて事業場外で働き、帰社するような場合も事業場外みなしの適用はありません。
 

裁判の判例では事業場外みなしはほとんど適用が否定されている

裁判では「労働時間の算定が困難な場合」は非常に厳格に解釈されており、ほとんど認められていません。適用を認めなかった事例として「セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京高裁令和4.11.16判決)」があります。
 
製薬会社の外勤の医療情報担当者(MR)の事例です。会社側は、毎日の報告はさせていなかったものの、週報でMRが1日の間に行った業務の営業先と内容を具体的に報告させていました。
 
これは、会社が導入した勤怠管理システムで出退勤時刻を把握できるとされ、管理職などが労働時間を算定しがたいときには該当しないと、適用は認められませんでした。
 
直行直帰の営業担当者について、事業場外みなしの適用を認めた「ナック事件」の裁判例はありますが、かなり例外的な場合と考えられます。似たような事例で適用を否定した裁判例もあります。
 
「ナック事件(東京高裁平30.6.21判決)」は、 工務店向けのコンサルティング営業担当者の事例です。訪問スケジュールは営業担当者が決定し、上司による個別の指示や確認がありませんでした。携帯電話は保有していましたが、訪問結果を上司に都度報告していたわけではありません。したがって、管理職などが労働時間を算定しがたいときに該当すると適用が認められました。
 

事業場外みなしの注意点

「事業場外みなし」は労働時間の算定等の特別の規定です。休憩や深夜業、休日等に関する規定は原則通り適用されます。
 
つまり、事業場外の労働が休日や深夜になった場合の割増賃金は請求できます。法定休日の労働なら3割5分増以上の割増賃金、午後10時から午前5時までの深夜労働なら2割5分増以上の割増賃金です。
 

直行直帰でも「事業場外みなし」適用は限定されている

以上のように、たとえ直行直帰でも「事業場外みなし」が適用される場合は極めて限定されています。まずは本当に事業場外みなしが適用される事態なのかを確認しましょう。必要があれば、労働局などの総合労働相談コーナーなど公的機関に相談することをおすすめします。
 
安易に「事業場外みなし」が適用されて、長時間労働で健康を害するなどもってのほかです。あなたの身を守り、働く仲間を守るためにも勇気を出して行動しましょう。
 

出典

e-Gov法令検索 労働基準法

厚生労働省 「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用について

 
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー

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