更新日: 2023.08.30 働き方
「正社員になれ」派遣社員に対して世間の人はそう言うけど、正社員に何のメリットが?
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
より高い給与を得られる期待ができる
一般社団法人日本人材派遣協会の2022年の調査によれば、派遣社員の給与はほぼ全てが時給制です。
また、東京都・愛知県・大阪府の3都市について、派遣社員の平均時給は1621円となります。1ヶ月の給与は25万9360円程度になると想定されます(1日8時間、月20日労働換算)。年収換算すると311万2320円ですが、平均年齢が46.3歳であることを考えると、三大都市圏でこの給与は低いといわざるを得ません。
派遣社員は、基本的に手当てが支給されず賞与も支給されないことから、よほど良い条件の契約で働けているごくごく一部の方でない限り、時給が全ての世界です。参考までに、賞与が支給されている派遣社員はわずか6.1%です。
それに対して厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、企業規模1000人以上の企業における正社員の平均年収(きまって支給する現金給与額を12倍し、年間賞与その他特別給与額を加えたもの)は496万5700円と推測できます。平均年齢は43.7歳と、派遣社員よりも多少低くなっています。
派遣社員の想定平均年収311万円台というのは、20歳から24歳の正社員の想定平均年収327万1800円よりも低いです。給与だけを見ると、世間が「正社員になれ」と言うのも納得できるでしょう。
安定して長く働き続けられる可能性が高い
「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、企業規模1000人以上の企業における正社員の平均勤続年数は13.9年です。それに対して派遣社員は、日本人材派遣協会の調査によれば、現在の派遣先での勤続年数が「通算1年未満」である方が半数となっています。
また、有期雇用契約で働く場合は、多くの場合3ヶ月ごとの契約更新になり、常に抱える失職のリスクは決して小さくありません。派遣会社との契約が期間の定めのない「無期雇用契約」になったとしても、派遣先との関係は有期であることには変わりはなく、派遣先との契約がなくなればまた派遣先を探すことになります。
派遣先が見つからない場合も、無期雇用契約であれば一定の保障がありますが、支給される給与はせいぜい6割や8割程度となり、給与が満額保証されるとは限らず、安定しません。加えて、若いうちはともかく、年齢を重ねると派遣先を探すことも難しくなってくる場合もあります。
確かに正社員も倒産や整理解雇など、突然失職するリスクは0ではありませんが、契約期間が決まっていない分、安定度は高いです。長期間働くことを考えると、正社員の方が働きやすいのかもしれません。
キャリアとして評価されづらい
必ずというわけではありませんが、契約期間の定めがある派遣社員のうち、管理者となったり責任のある仕事を任せられたりするケースは少ないと想定されます。
社内で給与の高い管理者や責任者は、基本的に派遣先の社員が担うからです。そうなると、派遣社員として長期間働いたとしてもキャリアとして評価されず、正社員として順調にスキルアップした場合に比べて、転職などで不利になる場合があります。
もちろん、派遣社員であっても専門性がある方、責任の重い業務を任せられている方も存在するため、ひとくくりにはできませんが、それらは例外的でしょう。将来のキャリアまで広く考えると、基本的に正社員の方が、キャリアとしては評価されやすいでしょう。
正社員になることで得られるメリットは多い
正社員になることで、派遣社員として働くよりも高い収入と安定した就労環境を得て、より堅実なキャリアを形成することのできる可能性があります。少なくとも想定される平均年収だけでいえば、185万円以上、正社員の方が高いと考えられます。
とはいえ、全ての正社員と派遣社員に該当するわけではなく、諸条件によっては結果的に派遣社員の方がよかった、という可能性もあります。ただ、一般的な例を見る限り、長い目で見れば派遣社員より正社員の方が安定しているなど、正社員になるメリットは決して小さくありません。
世間から「正社員になれ」と言われたときは、一度このまま派遣社員を続けてもよいのか、10年後・20年後を踏まえ、考えてみてください。
出典
厚生労働省 令和4年賃金構造基本統計調査
一般社団法人日本人材派遣協会 派遣社員WEBアンケート調査結果 2022年度
執筆者:柘植輝
行政書士