更新日: 2022.09.27 その他家計

「みなし残業代」ってなに? 制度を正しく理解しよう

「みなし残業代」ってなに? 制度を正しく理解しよう
「みなし残業代」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
 
みなし残業代は、実は、労働者側、使用者側、どちらにもメリットはあるものの、トラブルになりやすい制度です。特に、みなし残業の1つである「固定残業代」には、さまざまな注意点があります。
 
このみなし残業制度を採用している企業にお勤めの方、もしくは入社予定の方もいらっしゃるでしょう。「みなし残業代」を正しく理解して、メリットにつなげることができるよう、制度を利用するときのポイントを見ていきましょう。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

賃金の苦情がもっとも多い!?

賃金や固定残業代に関する申出・苦情がもっとも多いということは、厚生労働省の資料からもわかります(図表1参照)。
 
ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に関する苦情でも、民間職業紹介機関を利用して就職活動した方の「求人条件と採用条件が異なっていた」不満の中でもっとも多い苦情も、賃金に関すること(固定残業代含む)」です。
 
【図表1】


(出典:厚生労働省 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。 より一部抜粋)
 
本稿でお話しする「みなし残業」という言葉には複数の制度が含まれていますので、まずは整理してみましょう。
 
「みなし残業」といえば、「定額の固定残業代」かもしれませんし、「事業場外みなし労働時間制」か「専門業務型裁量労働制」もしくは「企画業務型裁量労働制」のことをいっているのかもしれません。
 
この4つのうち、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」については、対象となる業務が「厚生労働大臣が指定する業務」などと条件が狭いことや、労使委員会の設置など条件が厳しいこともあり、この制度を利用できる企業はあまり多くないことから今回は除外します。
 
ただ、「固定残業代」と「事業場外みなし労働時間制」については、利用する際、都合よく解釈して利用してしまいやすい制度です。この2つの制度について次項で詳しく説明します。
 

うちの会社に残業代がないってホント?

事業場外みなし労働制度は、労働基準法にしっかり規定されていることもあり、直行直帰の多い営業職などで昔からよく使われていた制度です。
 
この制度利用が認められているのは、正確な労働時間の算出が難しいとき。ここで、営業職など外で仕事をされることが多い方は、自分に当てはまると理解される方はいらっしゃるかもしれません。
 
では、会社から「直行直帰で労働時間がわからないから、終業時間18時まで1日8時間働いたことにして、残業代はないから」といわれて、そのまま了承してしまってよいのでしょうか。
 
もし、取引先への説明が思ったよりも時間がかかり、18時どころか20時までかかってしまった場合、残業代は請求できないのでしょうか。
 
答えは「できる」です。再度の繰り返しになりますが、労働時間の把握が客観的に困難な時に「事業場外みなし労働時間制」が適用とされます。
 
上記のような場合、スマホで上司に連絡すること、もしくは会社のシステムなどで出勤状況などを入力するなど、外から連絡をとることが可能なので、残業代を支払わない理由にはなりえないということです。
 

定額の固定残業代を支払われているから残業時間は請求できない?

使用者側からは、給与計算の煩雑さがなくなるということから、導入企業が増えている固定残業代ですが、運用を間違えるとトラブルの元です。
 
固定残業代を支払うときには、基本ルールをしっかりと守ることが大切です。もともと、賃金に関しては「書面」にて労働者に通知することが必要ですが、定額残業代の導入のためには、書面の中にちゃんと以下の項目について記載しましょう。


(1) 固定残業代を除いた基本給の額
(2) 固定残業代は労働時間何時間分か。金額の計算方法
(3) 固定残業代の時間数を超える時間外労働や休日・深夜労働に対しての割増賃金を支払うこと

労働者側のメリットとしては、書面で固定残業代が45時間分と書かれていて、その月の残業が12時間程度だとしても、差額を返金する必要はない点です。通常、時間外の割増率は25%ですから、その部分を加味して固定残業代が計算されているかを確認してみましょう。
 
特に最低賃金ぎりぎりの給料に設定している場合、毎年10月に最低賃金が変更されると、違法になってしまうケースもありますので注意する必要があります。
 
例えば、東京都の最低賃金は1041円(令和3年10月1日時点)です。時間外25%を加味した最低賃金は1301円。令和4年10月には1072円に変更されますから割増後は1340円。今年の最低賃金は全国的に30円程度の上昇が予定されています(出典:厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧)。
 
この改定は10月1日や10月20日など、改定される日は都道府県ごとに少し違いがみられます。10月以降の給料がどうなるのか、固定残業をすでに利用されている方は、給料明細から計算が合っているか確認し、損のないようにしたいものです。
 

出典

厚生労働省 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。
厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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