更新日: 2022.09.20 働き方
「フレックスタイム制」における残業、注意すべき点とは?
本記事では、フレックスタイム制における残業時間の考え方について、導入の際の注意点とともに解説します。
執筆者:小原 崇史()
働き方改革で時間外労働の規制が強化
2019年4月に改正労働基準法が施行され、フレックスタイム制の清算期間が最大3ヶ月に延長されました。これによって、制度上はそれまでよりもフレキシブルな働き方が可能になりました。
同時に、36協定によって定めることができる時間外労働(残業)に、初めて法律による上限が規定されました(図1を参照。中小企業への適用は2020年4月から)。上限を超えた時間外労働は労働基準法違反となり、企業(使用者)に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。ちなみに時間外労働とは、法定労働時間を超えて働くことを意味します。
図1 時間外労働の上限規制 改正後のイメージ
出典 厚生労働省 「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 Ⅰ法令解説編」より引用
時間外労働が違法となるケース
時間外労働の上限規制が設けられたことで、どのようなケースが違法となりうるかに注意する必要が生じました。フレックスタイム制の清算期間は、1ヶ月超の場合は取り扱いが特に複雑です。時間外労働が違法となるケースには、以下の4つが挙げられます。
時間外労働は月45時間、年360時間まで
原則として、時間外労働は月45時間、年360時間までと定められています。これを超えて労働させる場合には労使間で「特別条項付き36協定」の締結が必要です。清算期間が1ヶ月超のフレックスタイム制では、清算期間の最終月に時間外労働のカウントが行われます(単月で週平均50時間の労働時間を超えた月を除く)。
単月で見ると月45時間の上限を超えていなくても、最終月に合算されて時間外労働としてカウントされるため、特別条項を定めていないと違法になる恐れがあります。
時間外労働が月45時間超となるのは年6回まで
特別条項付き36協定を締結している場合も、時間外労働が月45時間超となるのは年に6回までと定められています。
例えば清算期間が4~6月の3ヶ月の場合で、実労働時間がそれぞれ260時間、200時間、200時間だったとき、見かけ上は単月45時間を超えたのは4月だけです。しかし、他の月の労働時間が合算され、6月の時間外労働が94.2時間とカウントされるため、月45時間を超えた回数が「2回」と見なされてしまいます。
時間外労働+休日労働が単月100時間未満、年720時間まで
特別条項付き36協定を締結している場合も、時間外労働は単月100時間未満、年720時間までと定められています。法定休日に労働を行った時間も、これに含まれます。
例えば清算期間が4~6月の3ヶ月の場合で、実労働時間がいずれも210時間だったケースを考えてみましょう。単月ではどの月も法定労働時間を超えていませんが、(210+210+210)時間−520時間=110時間が6月の時間外労働となり、100時間を超えるため違法と見なされてしまいます。
時間外労働+休日労働の2~6ヶ月平均がいずれも80時間まで
連続する2~6ヶ月の時間外労働の平均は、いずれも80時間までと定められています。法定休日に労働を行った時間も、これに含まれます。
例えば、4月の「時間外労働+休日労働」が60時間、5月が99時間、6月が90時間だった場合を考えましょう。「(60+99)÷2=79.5」となり2ヶ月平均では適法ですが、「(60+99+90)÷3=83」となり、3ヶ月平均で違法となってしまいます。
まとめ
働き方改革関連法により、時間外労働を始めとする労働者の健康確保のための取り組みが強化されています。
併せて拡充されたフレックスタイム制は、企業にとっては残業代の抑制につながり、労働者にとってはワークライフバランスの確保につながる効果が期待されています。しかし、労働時間の管理がきちんとできていないと、気づかないうちに法令違反を犯しているという恐れもあります。
違法の場合に罰則を受けるのは企業の方ですが、過度な残業により心身の健康に支障を来すのは労働者です。労働時間の上限規制は、労働者の健康確保のために設けられた制度です。労働者自身もしっかりと制度の内容を意識しておき、法令違反とならないように気をつけましょう。
出典
厚生労働省 働き方改革のあらまし(改正労働基準法編)
厚生労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
執筆者:齋藤たかひろ
2級ファイナンシャルプランナー