更新日: 2022.06.29 家計の見直し
【家計相談】会社員の夫が勤務中にけがをし、休職することになりました。専業主婦である私は、どのように生計を立てていけばよいでしょうか?
貯蓄も少なく、夫の給与収入が途絶えてしまったら、Aさん家族は暮らしていけません。このような状況で、助けてくれる制度はあるのでしょうか?
Aさん家族が生計を立てていくための方法も考えてみましょう。
執筆者:三藤桂子(みふじけいこ)
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、三藤FP社会保険労務士事務所 代表、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士
大学卒業後、公務員、専業主婦、自営業、会社員、シングルマザーとあらゆる立場を経験。会社員の時、年金の仕組みに興味を持ち、仕事で役立つことがないかと社会保険の勉強をはじめ、出会った方のご縁もあり、開業。
社会保険労務士とFP(ファイナンシャルプランナー)という二刀流で活動することで、会社側と社員(個人)側、お互いの立場・主張を理解し、一方通行的なアドバイスにならないよう、“社員に好かれる会社”、“社員に寄り添う会社”の実現を目指す。
年金の知識を強みに、会社の顧問、セミナー、個別相談などを行う。
勤務中のけがは労災保険の対象
けがで医療機関を受診した場合、勤務(業務)中や通勤途中、もしくは業務外で対応が変わります。業務外であれば、加入する医療保険の対象となり、原則3割負担で診察等が受けられます。
業務中や通勤途中であれば、会社員(労働者)は労災保険の対象となり、医療保険で診察等を受けることができません。
Aさんは勤務中にけがであるため、けがが業務遂行性、業務起因性によるものであれば、業務災害と認定され、次の3要件を満たす場合、労災保険の適用を受けることになります。
(1) 業務上の事由、または通勤による負傷や疾病による療養のため
(2) 労働することができない
(3) 賃金を受けていない
労災の補償について
労災保険(労働者災害補償保険)とは、業務上による労働者の負傷・疾病・障害・死亡等に対して、必要な保険給付を受けることができる国の制度です。
Aさんは勤務(業務)中のけがにより休業しています。労災保険の保険給付として療養補償等給付があり、医療機関(労災指定病院等)においての治療等は無料で受けることができます。
療養中、仕事を休んでいる間、休業補償等給付として、休業した労働者の所得を保障するための給付があります。
休業中の所得保障について、けが(災害)が起きた最初の3日間は待機期間となり、労災補償はされないため、事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金※の60%)をしなければなりません(通勤災害は補償する必要はありません)。
4日目からは労災保険から平均賃金の8割(特別支給金を含む)が補償されます。
※平均賃金とは、原則としてけが(災害)が起きる前3ヶ月に、その労働者に支払われた給与(賃金)の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額です(労働基準法第12条)。
上記の保険給付のほか、療養が長期間にわたる場合には傷病補償等年金があり、休業補償等給付に代えて、所得保障を年金で支給することもあります。また、けがが治癒(症状固定)しても一定の障害が残った場合に支給される、障害補償等給付などがあります。
労災には付帯事業として社会復帰促進等事業がある
労災保険では、労働者の福祉の増進を図るため、業務災害(通勤災害)によって被災した労働者、およびその遺族に対する各種の保険給付とあわせて、社会復帰促進等事業を行っています。
社会復帰促進等事業のうち被災労働者等援護事業として、Aさんのように未就学の子がいる場合、要件を満たすことで、「労災就労保育援護費」という、未就学児を幼稚園、保育所等に預ける場合の 保育に要する経費の支給があります。
1. 障害等級第1級から第3級までの障害(補償)年金の受給権者、または被災労働者の子
2. 遺族(補償)年金の受給権者、または被災労働者の子
3. 傷病(補償)年金の受給権者のうち傷病の程度が特に重篤な人の子で、保育を必要とする未就学の子どもがあり、その子どもと同一生計にある家族が就労のため子どもを保育所、幼稚園等に預け、かつ、その保育に係る費用の援護の必要があると認められる人
以上の要件にあてはまる人は、就労保育援護費が支給されます。
■保育を要する児童1人につき月額 …… 1万3000円
就業不能保険・所得補償保険の加入
Aさんは業務中のけがのため、国からの補償を受けることができますが、日ごろから万一に備えて、私的保険の加入も検討することをお勧めします。
病気やけがで働けなくなったときの生活費をサポートする保険を、就業不能保険・所得補償保険といいます。この保険は、病気やけがの治療による長期間の入院や在宅療養などによって働けない(就業不能)状態になったときの、長期の収入減少に備えるための保険です。
ただし、保障期間や対象となる傷病等は保険商品によって変わります。加入の際はよく説明を聞いて契約しましょう。
まとめ
けがは突如起こるものです。Aさんのように労災保険から保険給付等があっても、家計の支出を100%まかなえるわけではありません。
日頃から働けなくなったときを想定し、家庭で話し合っておくことが大切です。まずは、万一の備えとして生計を立てていくために、次のことを実践してみてはいかがでしょうか。
(1) すぐに使える流動性資金(預金)を生活費として3ヶ月分程度を準備しておく
(2) 公的保険制度を理解し、保障額等を把握しておく
(3) 公的保険制度の不足分を補うために私的保険の加入を検討する
出典
厚生労働省大阪労働局 社会復帰促進等事業の種類と概要
厚生労働省 厚生労働省関係の主な制度変更(令和3年4月)について
執筆者:三藤桂子
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、FP相談ねっと認定FP、公的保険アドバイザー、相続診断士