更新日: 2021.12.06 働き方
パートタイム主婦の収入の「壁」は、これからどう変わる? その2
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。
社会保険の適用拡大とは? 「106万円の壁」の内容が変わる?
2020年5月に成立した年金制度改正法には、短時間労働者に対する厚生年金と健康保険の適用の拡大という項目が盛り込まれています。端的にいうと、社会保険の適用拡大とは、その1で説明した「106万円の壁」の対象となる企業の範囲を拡大し、社会保険の加入者を増やそうという政府の政策です。
現在は、次の条件に当てはまる短時間労働者に厚生年金保険、健康保険に加入する義務があります。
(1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(2)雇用期間が1年以上見込まれること
(3)賃金月額が8.8万円以上であること(年収換算で約106万円以上)
(4)学生でないこと
(5)従業員が常時501人以上の会社に勤めていること
上記条件に関連して、新しい年金制度改正法では(2)と(5)の条件を変更し、より小さな企業で、より短い期間働く短時間労働者にまで、社会保険の加入義務を広げようというものです。
変更の内容は以下のとおりです。
2022年10月から、「1年以上」を「2ヶ月超」に変更
2022年10月から「101人以上」
2024年10月から「51人以上」に変更
すなわち、3年後には従業員51人以上の企業で2ヶ月超働く見込みの短時間労働者にも、加入の義務が出てくるということです。
上記の条件に当てはまらない、さらに小規模の企業で働く短時間労働者には、その1で述べた「130万円の壁」が適用され続けます。
「106万円の壁」の拡大に関する対応策
「106万円の壁」が拡大されて、より多くの短時間労働者に社会保険の加入義務が生じるのは、本人とって良いことでしょうか、それとも悪いことでしょうか?
社会保険料を支払わなくて済むように収入を106万円未満に抑えた方が良いのでしょうか?
厚生年金と健康保険に分けて考えてみましょう。
厚生年金
厚生年金保険料は、本人だけが支払うのではなく、労使折半で支払います。
また、65歳以上になったら、老齢厚生年金を受け取れるだけでなく、事故や病気で障害を負った場合に障害厚生年金ももらうことができます。すなわち、保険料に見合った年金がもらえるので、保険料が掛け捨てになるわけではありません。
健康保険
健康保険料も厚生年金保険料と同様、労使折半です。健康保険料は、あとから給付金をもらえるわけではないので支出増となりますが、夫の扶養に入っていれば、保険料なしで医療保障が受けられます。
その点からいえば、出費増でリターンはなしということになりますが、自ら保険料を支払うことで被扶養者ではもらえない傷病手当金がもらえるようになり、保障の内容が改善されるというメリットがあります。
厚生年金保険料、健康保険料とも、社会保険料控除の対象になるので、保険料として支払った全額には税金がかかりません。
社会保険に加入しなくてはならないといっても、単に費用が増加するわけではなく、それなりのメリットがあります。もし、より長い時間働いて、給与が増えるのであれば、社会保険料を払わなければならないといっても、手取り額自体が増加するメリットがあります。
一概に106万円以上は稼がないと決めるより、それらのメリット計算をした上で、どちらにするかを決めるのが、合理的であり、ご本人の利益にもつながるでしょう。
注)この記事では、便宜的に「パートタイム主婦」「夫」という言葉を使っていますが、場合によって、「パートタイム主夫」「妻」と読み替えてください。
出典
厚生労働省 年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー