更新日: 2021.06.01 働き方

フリーランスの自衛のすすめ

フリーランスの自衛のすすめ
「希望者が1週間に3日休める週休3日制度」という議論が、政府・与党内で検討されています。厚生労働省からは、副業のガイドラインが公開されていますし、企業が就業規則から副業禁止規定を撤廃するなど、育児、介護と仕事の両立支援や地方との兼業など、さまざまな働き方をあと押しするような制度が提案されつつあります。
 
ただ、もともと会社員だった方が、いきなり異なる仕事を始めても、うまくいくとは限りません。今回はフリーランスを始める場合に知っておくべきポイントをお話ししましょう。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

労働者かどうか判断されることは難しい?

コロナ禍の中、収入アップを目指すための副業先としてあっという間に脚光を浴びたのは、料理の宅配業です。会社員という本業が別にあって、空いた時間に料理を宅配する場合、副業である料理宅配は「フリーランス」、もしくは「個人事業主」に分類されます。
 
しかし、単なる「収入アップ」ということであれば問題はないのでしょうが、立て続けに問題が起き、それに伴い「労働者性」を問われるようになってきています。
 
「労働者」であると認められれば、料理を落としてしまったり、自動車とぶつかったりというような困った場面で、自分の責任ではなく、「会社の管理下」で起こったこととして、対処を自分でしなくてよくなる可能性があります。ただ、料理の宅配で働く方が労働者かどうか、その基準がなぜ難しいのか、それは労働関連の法律で、労働者の範囲が異なるからです。
 
例えば、労働組合法では、労働者の定義は、賃金、給料およびこれに準ずる収入で生活する者となっています。一方、労働基準法では、事業に使用され賃金を得ている者となります。
 
ここが法律のわかりにくい点です。法律で定義が決まっていても、実情で判断されます。いったん、フリーランスとして働き始めると、労働者と認められるためには、たくさんの資料を集めて認めてもらう必要があるのです。
 

個人事業主のメリット・デメリットを整理してみると

労働者かどうかを判断するために、法律や通達によって一定の基準があるものの、実情によって判断されるということは前段で説明はしました。しかし、いったん争いになってしまうと、労働委員会で判断されていたものが覆ったり、裁判で再逆転されたりということもあり得ます。
 
やはり「自分で仕事をする」ということは、リスクも考えておかないと、「こんなはずじゃなかった。労働者として働くほうが楽だった」ということになりかねません。
 
ただ、フリーランスで働くということは、メリットもありますので整理してみましょう。
 
まず、個人事業主の利益はそのまま自分の収入となりますし、確定申告をすることで、その中から、かかった通信費や燃料代などの経費も控除できます。また、自分のスキルを会社以外で発揮するということも可能です。
 
例えば、渋谷区で、民間から副業人材を採用するということが行われました。今回は、スタートアップ支援事業に携わるためということですが、本業で一定の実績を上げたことで、自分の人生を豊かにできるというメリットもあります。
 
一方、デメリットもありますので、整理しておきます。
 
副業先に行く途中で事故にあったり、本業と副業を掛け持ちすることで疲労がたまり、病気になってしまったりした場合です。
 
もし、副業先でけがをし、そのせいで本業を休業せざるを得ない事態になったときに、本来の勤務先が親身に対応してくれない可能性があります。「好きなことをやってけがをしたんでしょう」といわれないためにも、フリーランスはリスクへの備えを「自分」がしなければなりません。
 

フリーランス、こんなときどうする?

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の名前で公開されています。この中でもいくつか紹介されていますが、フリーランスであれば、以下のような場面になったことがあるのではないでしょうか。
 

●受注したはずなのに、契約書を交付してもらえない
●約束していた報酬額よりも、実際の支払額が少ない
●役務の成果物を受領してもらえない。または著作権自体が取り上げられてしまった
●労働者のように、働く場所や時間まで細かい指示を受けており、ほかの仕事ができないのに、労働契約ではなく委託契約とされている

 
このようなトラブルは珍しいものではありませんが、条件の詳細を詰めることをしっかりしない、もしくは、慣れてきたらそのうち報酬は上げるからなどの口約束で成り立っているケースもあります。このようなトラブルに対応するための相談窓口も設置されています(「フリーランス・トラブル110番」(※))。
 
いきなり弁護士に相談するというのはなかなかできないかもしれませんが、「フリーランス・トラブル110番」は匿名でも相談可能であり、メールや電話、対面、ビデオ通話などの相談は「無料」ですから、最初の相談先として覚えておいてもよいでしょう。自分では違法かどうか判断できなくても、法律の専門家に「違法」だと判断してもらえるだけでも、方針を決定しやすいのではないでしょうか。
 
筆者もフリーランスになってから20年以上経過していますが、「自分の身は自分で守る」ためには、しっかりとした知識が必要だと思うことはよくあります。
 
フリーランスを目指すことのリスクを申し上げましたが、冒頭の週休3日制も考えれば、会社員の給料と自分で稼げる副業を合わせて収入を大幅にアップさせる手段ともなりえます。自分の人生のステップアップに大いに役立つ手段であるともいえるのです。
 
(※)「フリーランス・トラブル110番」
電話0120-532-110
 
(参考)
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
公正取引委員会「(令和3年3月26日)「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)に対する意見募集の結果の公示及び同ガイドラインの策定について」
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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