更新日: 2021.04.29 働き方

労災保険の改正で副業・兼業がやりやすくなる?

労災保険の改正で副業・兼業がやりやすくなる?
コロナ禍で副業・兼業を認める企業が増えてきました。企業で働いている方の中にも、空いた時間で副業を始めてみようと思っている方もいらっしゃるのではないのでしょうか。
 
しかし、今までの労災保険(労働者災害補償保険)では副業・兼業をした場合、守られていない労働時間帯が多かったのをご存じでしたか。2020年9月に労災保険が改正されて、従来より安心して副業・兼業ができるようになりました。どう改正されたのか確認してみましょう。
北山茂治

執筆者:北山茂治(きたやま しげはる)

高度年金・将来設計コンサルタント

1級ファイナンシャルプランニング技能士、特定社会保険労務士、健康マスターエキスパート
大学卒業後、大手生命保険会社に入社し、全国各地を転々としてきました。2000年に1級ファイナンシャルプランニング技能士資格取得後は、FP知識を活用した営業手法を教育指導してきました。そして勤続40年を区切りに、「北山FP社会保険労務士事務所」を開業しました。

人生100年時代に、「気力・体力・財力3拍子揃った、元気シニアをたくさん輩出する」
そのお手伝いをすることが私のライフワークです。
ライフプランセミナーをはじめ年金・医療・介護そして相続に関するセミナー講師をしてきました。
そして元気シニア輩出のためにはその基盤となる企業が元気であることが何より大切だと考え、従業員がはつらつと働ける会社を作っていくために、労働関係の相談、就業規則や賃金退職金制度の構築、助成金の申請など、企業がますます繁栄するお手伝いをさせていただいています。

HP: https://www.kitayamafpsr.com

従来の労災保険

企業は労働者を1人でも雇用していれば、労災保険に加入しなければなりません。たとえ副業・兼業であっても、労働時間が短くても、労災保険に加入する必要があります。
 
しかし、副業・兼業をしている企業で労災保険事故が発生してしまった場合は、副業・兼業先の収入のみを労災保険を支払う算定の基礎(算定基礎)とするため、補償が少なくなってしまいます。
 
例えば、会社Aで月に20万円収入がある労働者が、会社Bで月に15万円の副業を始めたケースを考えてみましょう。
 
会社Bで仕事中に事故があった場合、会社Bの月15万円が算定基礎となって補償されます(該当補償:休業補償・障害補償・遺族補償など)。この場合、会社Aの20万円はまったく考慮されません。これでは心配で、兼業・副業ができませんね。
 

改正後の労災保険

令和2年9月1日以降は、けがをした労働者や病気になった労働者がいる場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に、給付額等が決定することになりました。
 
上記の例で考えてみると、会社Bで仕事中に事故があった場合、会社Bの月15万円と会社Aの20万円が合算された35万円が算定基礎になります。
※原則、けがなどをした時点で、複数の会社で働いている労働者が対象です。
 


(出典:厚生労働省「「労働者災害補償保険法」が改正されました」(※))
 

さらによいこと

従来の制度では、それぞれの勤務先ごとの負荷(労働時間やストレス等。以下同)を個別に評価して、労災認定できるかどうかを判断していました。今回の制度改正では、それぞれの勤務先ごとの負荷を、おのおの評価を行い、労災認定が不可のときは、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断することになりました。
 
今回の制度改正では、病気になったりけがをしたりしたときなどに、2つ以上の会社等に雇用されている労働者や、病気になったりけがをしたりしたとき、1つの会社等でのみ雇用されている場合(またはすべての会社等を退職後の場合)であっても、そのけがや病気などの原因・要因となるもの(例:長時間労働、強いストレスなど)が、2つ以上の会社等で雇用されている際に存在していたならば、対象となります。
※特別加入者の方も、今回の制度改正の対象です。
 


(出典:厚生労働省「「労働者災害補償保険法」が改正されました」(※))
 

留意すること

複数の企業で働くということは、当然労働時間が長くなるということです。自分自身による就業時間の管理や健康の管理がとても大事になります。
 
労災保険についてはだいぶ改善されましたが、雇用保険はまだ十分とはいえないかもしれません。1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることになります。雇用保険の改正はまだ65歳以上が対象です。また、社会保険にも十分留意する必要があります。
 
そして副業・兼業をする場合、次の3点にも常に留意することが大事です。

(1)職務専念義務:仕事中は職務に専念しなければならない
(2)秘密保持義務:企業に業務上の秘密を漏らしてはならない
(3)競合避止義務:企業と同じ業務を行い、競争的取引をしてはならない

 
(※)厚生労働省「「労働者災害補償保険法」が改正されました」
(参考資料)厚生労働省「複数の会社等に雇用されている労働者の方々へ 労災給付が変わります」
 
執筆者:北山茂治
高度年金・将来設計コンサルタント
 

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