更新日: 2021.03.26 働き方
2021年4月に始まる「同一労働同一賃金」には例外はない!後編
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
裁判によって明らかになった「不合理」とはどういうことか
令和2年10月、最高裁がまとめて判決を言い渡した裁判は、私たち専門家にとっても、「何が不合理か」を説明してもらえたことで、どう見直すべきかの方針を立てやすくなりました。
まとめて、判断されたのは、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便の3事件です。この3つの事件では、基本給だけでなく、扶養手当や通勤手当などを含む各種手当、年末年始休暇や法定外年休、早出残業代(割増率)、病気欠勤中の保障など、かなり詳細にわたり、不合理かどうかを判断しています。
個別の説明は省きますが、企業としてまず考えるべきは、病気や私傷病欠勤中の賃金保障や、そして正社員以外の休暇をしっかりと考えることに取り組むべきでしょう。
日本では超高齢化を見据え、将来的に70歳まで労働者を雇用するということが視野に入ってきています。年金を受け取りながら、少しでも収入を得ようと、パートなどで働く人も増えることでしょう。休暇は、「有給」か「無給」か、有給はいつ何日付与するのか、病気になった場合、病気休暇を取得させるのか、など社内ルールで見直すべきところは多々あるでしょう。
パートや契約社員でも退職金や賞与は受け取れる?
判決では、「賞与や退職金を有期契約労働者に支給しないことは不合理ではない」という判断の根拠に、ちょっと難しい言葉ですが、「正社員人材確保論」という言葉を用いています。
賞与や退職金は、職能給を基礎として算定されているということを求められ、長期的に育成される正社員の人材確保と定着を図るという前提のもと、不合理かどうか判断をくだしています。
今回の判決で注目すべきは、「0円でも、不合理ではない」と言い切ったことです。ただ、企業としては、この一文で、安易に、パートや契約社員に、退職金、賞与は不要だと決定することはできません。あくまでも前提条件が必要なのです。
正社員を確保、育成、定着するために設定されているのが、賞与と退職金という前提です。個別労働者ごとの支給額だったり、計算方法が定義されていない企業は、見直しが必要となるでしょう。裁判からは、いかに賞与や退職金の制度設計が、「0円でも構わない」と判断されるのに大切なのかがわかります。
厚生労働省のモデル就業規則のうち、賞与に関する規定をご紹介します。このまま使っている中小企業も多いでしょうが、これに対象者や計算方法などを詳細に追加する必要が出てくるでしょう。
■賞与は原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、または支給しないことがある。
(算定対象期間 支給日)
月 日から 月 日まで 月 日
月 日から 月 日まで 月 日
■前項の賞与の額は、会社の業績および労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。
パートや契約社員でも有給休暇を取得できる?
「パートなどは、そもそも働けるときに時給で働いているので、有給なんて与えられない」と思い込んでいる人は多いでしょう。ただ、日本人の有給取得が少ないことから、すでに、年5日は必ず有給を取得させるように義務付けられています。
今後、ネットでニュースを見て、パート等から有給休暇をいきなり請求されることも増えてくるでしょう。有給休暇は、以下のように取得させなければなりません。
それは企業としての義務です。勤続年数によって取得させればいいのですが、有給休暇を取得させるのであれば、「有給管理簿」の保存義務が発生します。
有給休暇を、入社から半年後に付与していくのか、それとも、決まった付与日に社員に一斉に付与するのか、就業規則を整備しておくべきでしょう。これまで支払ってこなかったパートへの有給休暇取得をすべて取得させるとなると、多額の人件費が発生するはずです。
(出所:厚生労働省ホームページ/リーフレットシリーズ労基法39条)
2回にわたって、来るべき同一労働同一賃金への対応についてお話しさせていただきました。新型コロナウイルスの影響で、経済状態が厳しい中で、そこまで考えることがなかなかできないという企業の声も切実でしょう。
ただ、労働者への対応を一歩間違えれば、争いに発展する点が一番怖いことです。今のネットの時代、いい情報も悪い情報もあっという間に伝わります。何か問題が起こってからでは遅いのです。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。