更新日: 2020.05.16 不動産投資

いまさら聞けない不動産投資の基本(6)事業収支

いまさら聞けない不動産投資の基本(6)事業収支
これまで、5回にわたって不動産投資の歴史、メリットデメリット、物件選定のポイントについてお伝えしてきました。
 
不動産投資の最大の特徴は家賃という収益が得られることです。不動産投資を軌道に乗せるには安定した家賃が得られることはもちろんですが、保有中にかかるコストなども併せて理解しておかなければ、結局赤字になってしまうということもあります。
 
ここでは、不動産投資を専門に行い、何件もの物件を保有しているプロ中のプロが用いるような高度な話ではなく、不動産投資の基本として最低限抑えておかなければいけない「事業収支」の考え方についてお伝えします。
 
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

不動産投資は「事業」

不動産投資を始めると「投資家」であるとともに「事業者」になります。毎年、不動産事業について確定申告が必要であり、そのためには「帳簿」を作らなければなりません。
 
個人として行う場合には、毎年得られた家賃収入から必要経費を引き、残った課税所得に所得税、住民税が課されます。
 
不動産投資以外の所得がある場合にはその所得と合算し、不動産投資が赤字の場合には「損益通算」、つまり不動産投資の赤字分をその他の所得と合算し、課税所得を小さくすることで所得税などを抑えられることになります。
 
投資・事業として行うからには、そのリスクも自身が負うことになります。
 
一般に金融商品については「金融商品取引法」や「消費者保護法」などによってある程度保護されているとも考えられますが、不動産投資については投資家、不動産オーナーとなる人は「事業者」であり、そのような保護は原則として受けることができないと考えなければなりません。
 
投資は「自己責任」が基本です。不動産投資では特に事業者としての責任を認識しておく必要があります。

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失敗しても抜けにくいのが不動産投資

不動産投資は、始めた後「失敗した」という状態、当初の目論見通りに収益が得られない状態になっても気軽に手を引くことができないのが怖いところです。
 
不動産を売却するときにも手間や時間がかかります。また、思うように想定した収益が得られずに売却するということは、想定当初よりも利回りが低いということでしょう。投資用不動産の価格は利回りに影響され、想定利回りの低い物件の売却価格は取得時より低くなる可能性があります。
 
ローンの残債が売却価格より多い場合にはさらにお金を払わない金融機関の抵当権が抹消できず売却することもできません。
 
以上のようなことから、不動産投資の場合は金融商品に投資するとき以上に物件取得前に「事業収支の想定」を慎重に検討しておく必要があります。

不動産投資の事業収支

不動産投資での家賃は一般的な事業で言うところの「売上」にあたります。事業には「原価」や「販売管理費」があります。毎月あるいは数年ごとにかかるコストがあります。
 
これまでにお伝えしてきたように、不動産投資の物件選定のうえでは立地が非常に大切です。立地によってその物件から得られる収益、すなわち家賃はある程度決まってきてしまいます。不動産投資も投資である以上、安定した収益が得られることが大前提です。
 
不動産投資での事業収支は長期にわたって検討しておく必要があります。毎年の収益はその年ごとに得られる家賃収入から物件を維持するために必要な経費を差し引いた残りです。
 
最初のうちは物件を維持するために改めて拠出する費用はそう多くはありませんが、年数を経過すると修繕費や設備更新費などの費用がかかるようになってきます。そうした予測を立てておく必要があります。

投資物件の利回り

投資した資金に対し、どの程度のリターンが得られるかを数値化したものが利回りです。物件選定の際は、周辺の賃料相場と物件価格、かかる経費なども考慮し、どの程度の利回りで運用できるかを計算することが大切です。
 
物件選定の際、まず着目するのは「表面利回り」です。表面利回りは単純に毎年得られる家賃収入を物件価格で割ったときの割合です。
 
例えば、月6万円の家賃を得られる物件を900万円で購入すると想定した場合、表面利回りは(6万円×12ヶ月)/900万円=8.0%となります。最近の都心部の物件の表面は4~6%程度の物件が多くなっています。
 
しかし、実際にはかかる経費を差し引いて検討しなければなりません。表面利回りはあくまでも目安。物件選定を進める際にはさらに詳細な検討が不可欠です。
 
物件を維持するために必要な経費を差し引いた後の利回りを「実質利回り」などと言います。差し引く経費は固定資産税・都市計画税、マンションの場合は管理組合に支払う管理費・修繕積立金などがあります。
 
さらに、物件取得時には仲介手数料や登記にかかる費用、司法書士報酬、ローン手数料、不動産取得税など。建物を保有している間にはローン金利、火災保険料、建物管理費などがかかります。
 
これらの経費は物件によりまちまちですので一概には言えませんが、実質利回りは表面利回りより2~3%下がると考えておいたほうがいいでしょう。
 
また、設備の更新費用や内装などの補修・修繕費なども考慮しておく必要があります。これらをあまり抑えてしまうと、周辺の競合物件との競争が厳しくなったり、家賃が大きく下落してしまう要因にもなります。

収支検討は自らの責任で行う

投資用不動産を販売する業者から購入する場合などは事業収支のシミュレーションなどを提示される場合も多いでしょう。
 
こうした業者が作成する資料では周辺相場より高めの家賃が設定されていたり、空室率を低く設定しているケースが少なくありません。また、補修費や修繕費などが少なく見積もられているケースもあります。
 
新築であれば、最初は高めの家賃でも入居者がいるかもしれませんが、一度人が住めばその物件は中古物件です。最初の入居者が退去し、次の入居者の募集をするときの家賃が当初想定していた家賃よりも安くなってしまう可能性もあります。
 
実際の事業収支を想定するうえでは、空室率や将来の家賃下落もある程度織り込んでおくべきです。販売業者が提示する想定家賃を鵜呑みにせず、自分で調べておく必要があります。最近は便利になりました。
 
インターネットで周辺の家賃相場を誰でも見ることができますので、それらを参考に、取得しようとする物件の将来の家賃などを自分の責任で検討しなければなりません。

まとめ

何度もお伝えしている通り、不動産投資は一度始めると途中でやめるのが難しい投資です。それだけに、物件取得前に慎重な検討が求められます。
 
投資用不動産販売業者などは良いことばかりを伝えるケースもあります。しかし、投資は自己責任であることはもちろん、不動産投資家は「事業者」となり、保護されないばかりではなく、入居者が高い賃料を納得して支払っていただけるよう物件を維持する義務を負うことを忘れてはいけません。
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役


 

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