先鋭化する米中対立は、資本市場に破滅的混乱も

配信日: 2019.10.07

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先鋭化する米中対立は、資本市場に破滅的混乱も
米中の対立は、これまでも株価などに大きな影響を与えてきました。貿易の停滞は両国のみならず、世界経済にも影響を与えつつあるためです。しかし、対立はさらに広がりを見せており、より直接的な影響を資本市場に与えることが懸念される状況となっています。
 
北垣愛

執筆者:北垣愛(きたがき あい)

マネー・マーケット・アドバイザー

証券アナリスト、FP1級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級
国内外の金融機関で、マーケットに関わる仕事に長らく従事。
現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、マーケットに関する情報等を発信している。
http://marketoinfo.fun/

中国企業へ向かう米国マネーを止めようとする米政権

関税合戦から始まった米中対立は戦線を広げ、今や資本市場にも大きな動きが見られています。米国では6月、米国の証券取引所に上場している外国企業に対して米当局が完全な監査をできるようにする法案が、超党派の議員によって提出されました。
 
現在は、国家機密の漏えいリスクがあると主張する中国政府に配慮し、米国の通常の開示基準が中国企業には適用されていません。同法案では、3年の猶予を与え、米国の監査基準に準拠するか、上場廃止を選択するかを求めています。
 
この法案はまだ成立していませんが、ある米メディアは最近、トランプ政権が中国企業の米国取引所からの上場廃止を検討していると報じました。また、米連邦職員向け年金基金などによる中国への証券投資の制限も検討しているとしています。
 
中国株は今や、代表的なグローバル株価指数にも多く組み入れられており、インデックス運用を行っている米国の年金も自動的に中国株を多く保有しています。上場廃止については、その後に財務省報道官やナバロ大統領が早速否定し、火消しに回りました。しかし、対中投資制限については財務省は言及していません。
 

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米国債という反撃手段を持つ中国

報道では、まだ検討は初期段階としていますが、具体的な動きが見られれば、中国の反発は必至と見られます。そして反撃するとすれば、中国には大きな武器があります。外貨準備として保有する米国債です。
 
2019年7月時点で、米国債の保有残高は、1位が1兆1300億ドルを保有する日本で、2位が1兆1100億ドルを保有する中国となっています。2019年5月までは、中国が保有額首位でした。
 
中国は2019年7月に初めて外貨準備の詳細を公表しており、そこで2014年の米ドルの通貨比率が58%であったと明らかにしています。1995年においては米ドルは79%だったともしており、米ドルの比率がその間に大きく減少していたことが分かります。
 
最近の通貨構成は分かりませんが、中国はこのところ金の購入も進めており、外貨準備のドル偏重を望んでいないことは明らかです。
 
ただこれまでは、中国が米国への何らかの方策として米国債を売却することはないとする見方が大勢でした。米国債以外に巨額な資金を置いておける流動性の高い市場がないうえ、米国債の価格下落は中国経済自身への跳ね返りも大きいためです。
 
しかし米国が、中国の国有企業や民間企業の資金調達を阻む動きに出るとするなら、中国が米国債の売却を検討しないと言い切ることは、もはやできないと思われます。
 

増大する米国債の発行

米国の財政は急速に悪化しています。米国議会予算局(CBO)によると、2019年度の連邦政府の財政赤字は9600億ドルとなり、前年度の7790億ドルから大きく増加する見通しです。赤字はその後も拡大を続け、2020年度には1兆ドルを超えると見られています。
 
米国では、08年の金融危機直後を除けば財政赤字が1兆ドルを超えたことはなく、好況時にこれほどの赤字は異例です。来年の大統領選を控え、与野党ともに歳出拡大に甘くなっていることが背景にあります。
 
財政悪化と共に米国債の発行も増えています。しかし、米国は先進国の中では今や高金利国であるため、表面上は、投資家はそれを受け入れているように見られます。
 
しかし9月半ばに、市場を震撼させるような動きが見られました。レポ金利という短期金利が一時10%にまで上昇し、連邦準備制度理事会(FRB)が10年ぶりに資金供給をするという事態に迫られたのです。
 
レポ金利は、FRBが政策金利としているフェデラルファンド金利(FF金利)に連動するのが通常であり、現在であれば2.25%を上限とするはずのものです。短期金利市場はその後も不安定な動きを示しており、FRBは対応を続けています。
 
こうした市場の混乱の背景には、銀行の短期資金の不足があります。資金不足の理由には完全に統一した見解はありませんが、9月15日に法人税の納付や新発米国債の決済日が重なったことが一つの要因として挙げられています。
 
つまり、米国の現在の金融市場にとって、米国債の発行額が大きくなり過ぎてしまっている可能性もあるということです。
 

米国の金利上昇は資本市場全体に甚大な影響

そうした不安定な金融環境の下で、中国が多少なりとも米国債を売却する意思を示したらどうなるでしょうか? 米国の金利が激しく上下する可能性は非常に高いといえます。現在の株高は低金利によって正当化されている部分が大きく、金利上昇(=債券の価格下落)は株価下落にもつながることは必至です。
 
また、信用力の低い企業の債務増大が指摘されて久しいですが、金利が上昇すれば、そうした企業の発行する債券(ハイイールド債)の市場も、株式市場以上のダメージを受けるでしょう。資本市場においても、米中はここに至るまでに相当に結びつきを強めてきました。
 
米国が安易に同国の資本市場から中国を締め出そうとすれば、その跳ね返りは米国にとっても貿易摩擦以上に大きくなると予想されます。世界的な低金利の中、リスクの高い商品での運用を多くの投資家が増やしており、金融資産の大幅な毀損がグローバルに予想されます。
 
執筆者:北垣愛
マネー・マーケット・アドバイザー


 

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