更新日: 2019.01.07 その他資産運用
資産運用で金への投資は必要か?金をまた買い始めた一部の中央銀行の目的とは?
当然ながら、金への投資はメリットだけでなくデメリットもあり、その運用効果については広く議論のあるところです。また金価格もここしばらく低迷しています。
ただ、一部の国の中央銀行では、その金への投資をまた増やしているようです。背景には何があるのでしょうか?
Text:北垣愛(きたがき あい)
マネー・マーケット・アドバイザー
証券アナリスト、FP1級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級
国内外の金融機関で、マーケットに関わる仕事に長らく従事。
現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、マーケットに関する情報等を発信している。
http://marketoinfo.fun/
金価格はここ数年ぱっとしない状況
金の国際的な標準価格は、米ドル建てで決められています。
この米ドル建て価格は、2011年夏頃に1800ドル超を付けたのをピークに下落を始め、ここ数年は1200ドル程度を中心とした横這い状態となっています。足元の価格も1200ドル台前半ですが、今年年明けの水準を下回っており、値動きは冴えません。
金の価格が上がらないのは、米国で2015年以降利上げが繰り返し行われており、金利を生まない金の投資対象としての魅力が一段と低下したことにあります。
また、このところ、多くの通貨に対して米ドル高となっていることも、米ドル建ての金価格の割高感につながり、価格低下を促しました。
しかし、金価格が低迷しているせいで目立っていないものの、今年になって金を積極的に購入している投資家層もいたのです。それは一部の国の中央銀行です。
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金への投資を増やす一部の中央銀行
金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2018年第3四半期における世界の中央銀行による金の購入量は、前年比で22%増となったと言います(※1)。
これは、2015年第4四半期以来の増加幅です。さらに、WGCの指摘で注目されるのは、第3四半期に金の購入を再開したり、増やしたりする国が増えたという点です。
購入国の中で最大なのはロシアです。これにトルコやカザフスタンが続きます。
米国から経済制裁を受けているロシアは、その影響を少しでも和らげるため、米ドルに依存しない経済体制の構築に腐心しています。そのために、保有していた米国債を急激に減らしており、代わりに金を購入していると見られます。トルコも11月初めまで、米国の経済制裁下にありました。
しかし第3四半期には、ポーランドやハンガリーも新たに金の購入を再開しました。ハンガリーなどは1986年以降初めて金を購入し、その保有量を10倍にしており、その理由を国家資産の安全性を高めるためと説明しています。
他にも、インドが今年になって金の保有量を徐々に増やしていますが、これも2009年に国際通貨基金(IMF)から金を購入して以来の目立った動きです。
各国の外貨準備の中で少しずつ減少する米ドル
前述した中央銀行は、それぞれの外貨準備の一部として金を購入しているのですが、世界各国の外貨準備については、それとは別の興味深い動きが見られています。世界の外貨準備に占める米ドルの比率が低下を続けているのです。
IMFによると、同比率は2018年6月末時点で62.25%となり、6四半期連続の低下となりました(※2)。6期連続の低下は、1999年の四半期ごと統計の開始以来、初めてのことと言います。
この理由としては、自国第一主義を掲げて傍若無人にふるまう米国に対し、世界各国が米ドル以外への分散投資の必要性をより感じるようになった可能性が挙げられます。もっと言えば、米ドルに対する世界の信頼が、わずかながらも揺らぎ始めている可能性があるということです。
ただそうであったとしても、米ドルに代わる基軸通貨はまだ育っていません。ブリグジットやポピュリズムの台頭などに苦しむ欧州のユーロには、今は魅力があるとは言えず、GDP世界2位の中国の人民元も、世界の外貨準備に占める比率は1.84%に過ぎません。このため、金への投資を検討する国が増えてきたとも考えられるのです。
資産の保険としての金の保有
最初に述べた通り、個人の資産運用として金へ投資することについてはさまざまな考え方があります。
金の悪い面から言えば、利子を生まないどころか、投資の仕方によっては保有している間に何らかのコストが発生することもあります。値上がりしなければ運用成果を得られませんが、ここ数年で見れば、大きな値上がり益も得にくい状況でした。
しかし、余裕資産の一部で金を保有することは、運用としてよりもむしろ、次のリーマンショックに備えた保険として考えることができるかもしれません。
一部の中央銀行が、国の「万が一」に備える外貨準備の中で金を増やしているのも、金融市場の混乱時や国家間の軋轢(あつれき)が高まるときには、金が頼りになる存在だと考えているためと見られるのです。
※12/11執筆時点による
出典
ワールド・ゴールド・カウンシル(※1)
IMF(※2)
Text:北垣 愛(きたがき あい)
マネー・マーケット・アドバイザー