更新日: 2019.01.10 その他資産運用
投資信託の「コスト」って、気に掛けたことありますか?…信託財産留保額
資格試験(=具体的には証券外務員試験やFP)のテキストなどには「信託財産留保金(=しんたくざいさんりゅうほきん)」と書かれることもありますが、意味は同じです。
なお、信託財産留保額は全ての投資信託に掛かるというわけではなく、一部の投資信託に掛かります。なので、信託財産留保額が掛からない投資信託というのも存在します。
Text:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。
目次
もし、信託財産留保額が掛かる投資信託なのでしたら
信託財産留保額が掛かるタイミングは、「投資信託を換金する時」です。
「投資信託を換金」という言葉をもう少し平たく言うと、「買った投資信託を現金に換える」ということになります。この時に、信託財産留保額を差し引いて現金にするのです。
ちなみに、投資信託による運用の結果に利益があろうと、損失を被っていようと関係なく、信託財産留保額が差し引かれます。
なので、もし利益が見込まれるのでしたら、投資信託を換金する時に信託財産留保額の分だけ利益が減ってしまうことになりますし、場合によっては見込まれたわずかな利益が、信託財産留保額を差し引くことで損失に転じてしまう可能性だってあるわけです。
また、逆に損失が見込まれる投資信託を換金した場合、信託財産留保額を差し引くことでマイナスがさらに大きくなってしまうことになります。
信託財産留保額は投資信託の最後に掛かるコストなのですね。このようなことから、投資信託を買うなら「信託財産留保額の掛からない投資信託を選ぶのが当然」と思われる方もいるかと思います。しかし、それは正しいのでしょうか?
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ところで、投資信託の換金という言葉について
生命保険などでは、「生命保険を解約する」という言葉がよく出てくると思いますが、「投資信託を解約する」と言うと少し微妙です。
と言いますのも、投資信託の換金の方法には「解約請求」と「買い取り請求」の2つの方法があるからです。なので、生命保険のように「解約」という一言で済ませてしまうのは、ちょっと違うのです。
では、投資信託の換金にあたり、「解約請求」と「買い取り請求」はどのように違うのでしょうか?投資信託の「解約請求」とは、「投資信託財産の中」から「自分の持ち分」を現金化することです。
つまり、「解約請求」の場合ですと、「投資信託財産の中にある株式や債券」などが市場で売却されることで現金となり、換金を希望する投資家に宛てて現金が(証券会社などの販売会社を通じて)支払われます。
一方、投資信託の「買い取り請求」とは、「投資信託の中」から「自分の持ち分」を、証券会社などの販売会社に買い取ってもらうことです。
つまり、「買い取り請求」の場合は、「投資信託財産の中にある株式や債券」などには変化がありません。投資信託の「自分の持ち分」が「証券会社などの販売会社の持ち分」に代わる、すなわちオーナーチェンジのようなイメージです。
「解約請求」と「買い取り請求」…肝心の手取り額の違いは?
昔は「解約請求」と「買い取り請求」で、投資信託に対する課税の方法が異なっていました。しかし、2009年の税制改正から、「解約請求」と「買い取り請求」で同じ課税方法になりました。
ということで、投資信託を換金する投資家の側にとっては、「解約請求」と「買い取り請求」とでは、「手取り額」に違いはありません。
にもかかわらず、投資信託を換金しようと思い証券会社に電話すると、電話の向こうからいまだに尋ねられるんですよね。
2008年以前でしたら「解約請求と買い取り請求と、どちらになさいますか?」と問われたら「決まっているでしょ!有利な方!」の一言で済んだのですが、今は「解約請求か、買い取り請求の、いずれかを投資家さんに選んでいただきたいのですが」と、電話の向こうで食い下がられてしまいます。
話は飛んでしまいしたが…信託財産留保額
信託財産留保額の「掛かる投資信託」と「掛からない投資信託」は、見分けることができるのでしょうか。見分けることができるとしたら、その方法は…?
信託財産留保額が「掛かる」投資信託は、目論見書(=もくろみしょ、投資信託の説明書)の最後の方にあるページの「ファンドの費用」という欄に書かれています。
「信託財産留保額は換金申し込み受付日(=もしくは、投資信託によっては、換金申し込み受付日の翌営業日)の基準価格に○%を掛けた額」という具合です。
「○%」というのは、これまでの筆者の経験則で言えば、0.1%か0.3%が多いようです。なので、購入時手数料や信託報酬に比べると、「小さなコスト」と言えそうです。
逆に信託財産留保額が「掛からない」投資信託は、同じく目論見書の最後の方のページにある「ファンドの費用」という欄に「信託財産留保額はありません」とハッキリ書かれています。
なので、信託財産留保額の「掛からない」投資信託を選ぶのでしたら、目論見書の最後の方のページにある「ファンドの費用」という欄をご確認されると良いでしょう。投資信託の目論見書は、各運用会社のホームページにPDFで載っていることが多いようです。
最後に…なぜ、「+1」と書いたのか?
ところで、投資信託のコストは「2+1」と書きました。「2」とは購入時手数料と信託報酬です。そして、「+1」が本稿で述べている信託財産留保額です。なぜ、「+1」なのでしょうか?
それは、信託財産留保額がコストと言い切れるのか否か、筆者には疑問だからです。換金を希望する「投資家の投資信託の持ち分」を換金する時に差し引かれる信託財産留保額。では、差し引かれた信託財産留保額は、いったい、どこに行くのでしょうか?
差し引かれた信託財産留保額は「投資信託財産の中に残る」のです。
つまり、換金する時に差し引かれた信託財産留保額は投資信託財産の中に残って、「運用」を続けることになります。そして、その「運用」の成果(プラスもマイナスもありますが)は「換金していない」投資家が享受することになります。
つまり、信託財産留保額は「換金する投資家」から、「換金せず(運用を続ける)投資家」に対する、いわば「置き土産」のようなイメージなのです。
とうことは、信託財産留保額は換金する人にとってはデメリットですが、(投資信託による)運用を続ける投資家にとっては、むしろメリットと言えるのではないでしょうか?
投資信託は今日も、新たに買う投資家がいれば売る投資家もおり、持ち続けることで運用を続ける人もいますから。最後になりましたが、信託財産留保額には消費税は掛かりません。その理由は、先述のとおり、信託財産に残しておく置き土産だからです。
Text:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役