更新日: 2019.01.07 その他資産運用
〈柴沼投資塾〉時事ネタ編⑤。為替が動かないのはどうして?
Text:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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理由1:トランプ新大統領の政策期待が剥落
トランプ新大統領が予想外の勝利を収めたときは、100円から118円まで急速に上昇しました。6カ月前と状況は大きく変わっていないのに不思議ですよね。ただ、相場の動きには必ず理由があります。6カ月前と何が変わったのか比較してみましょう。
6カ月前にまずフォーカスされたのが「政策期待」です。トランプ大統領の公約通りに政策が運営されれば、1)大幅な減税が実施され米国経済を大きく押し上げるだろう、2)インフラ投資が実施され金利が上昇するだろう 3)規制緩和策が打ち出され民間の経営活動が活発化し税収を押し上げるだろう という期待のもとにお金が米ドルに集まりました。しかしロシアゲートも含めトランプ大統領の求心力の弱さが露呈し、これらの政策期待が剥落したことが1つめの理由です。
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理由2:雇用統計は相変わらず好調だが物価上昇が鈍化
米国では、FRB(米連邦準備制度理事会。日銀に相当)が金融政策を決定します。同理事会のイエレン議長は、金利引き上げの条件として2つがクリアすることを明記しています。1つは雇用が安定すること、もう1つは物価が安定的に2%の水準を達成できることです。雇用は合格点ですが、物価指標について黄色信号が点滅しているために、以前は年4回と予想されていた利上げ予想が、現在はスローダウンしている、つまり日米間の金利差がそれほど拡大しないのではとみられていることが、円安が進まない2つめの理由です。
直近2017年6月2日(米国の雇用統計は毎月第一金曜日に発表されます)に発表された雇用統計は、相変わらず強い数字でした。失業率は4.3%でFRB(米連邦準備制度理事会)が考えている完全雇用のレベルをクリアしています。
もう一つの条件、物価の推移を見る指標はCRB指数です。CRB指数は、トウモロコシ、大豆などの穀物、牛肉・豚肉といったその他食品、ガソリン・灯油・天然ガスなどの天然資源と、金・銀・銅などの鉱物資源19品目で構成されています。ガソリンや灯油は米国でのシェールオイル増産によって、鉱物資源はトランプ政権によるインフラ投資期待が剥落したことによって、そして穀物は品種改良による増産によってそれぞれ価格が下落基調に推移し、これがCRB指数を押し下げています。
理由3:長期金利が上昇しない
3つ目は米国の長期金利が上昇しないことにあります。2016年11月のトランプ新大統領誕生時には長期金利が2.6%台まで上昇しましたが、2017年6月現在では2%台にようやく乗せた水準で推移しています。
投資家がどこに資金を振り向けるかを考えるときに、収益が見込まれるかどうかを見極めますが、現在先進国では米国に以外に安心して投資する先が見つからないのです。他の主要国と比較した場合、(1)米国債は流動性が高い(取引量が最も活発)。イタリアやスペインよりも(2)信用力が高いうえに、(3)利回りも両国を上回っています。それに加えて、これから金利正常化に向けた金融政策がとられようとしている、すなわち(4)金利が上昇することがわかっています。
このことから、先進国の債券投資対象としては米国債が最も魅力的ということになります。債券は発行から満期まで売買せずに継続保有していれば、当初の額面が戻ってきますが、通常は途中で売り買いを行います。その際、人気の高い米国債に買いが集中すれば、米国債の価額は上昇しますよね。額面1ドルの債券を買いたい人ばかりが増えていけば1.1ドル、1.2ドルと上昇していきます。そうなると、実質的な利回りは(金利÷買い付け価格)なので分母が大きくなる分、低下します。米国金利の上げが鈍いので、金利差が拡大しない。ドル高が進行しない3番目の理由です。
結論:110円を突破したので次の抵抗線に向けて
上記の3つの理由から、ドル円が動き辛く(ドル高円安が進み辛く)なっています。最近のチャートを確認してみると、6月には200日移動平均線の下限110円40銭台、所謂心理的な節目とも言われますが、その110円を割り込みました。そこで次の下値抵抗線を探してみると、4月につけた年初来安値108円となり、ここが当面のメドになりそうです。あまり考えたくはないですが、108円をさらに突破したときは次の下値メドを探すとチャート上では105円になります。
もっとも、これはあくまで短期的な話であることを付け加えておきます。急激に円高が進行すれば、例えば商社による資金決済や生命保険会社などの金融機関による外債運用でのドル買い需要が発生しますので中長期的でのドル高円安トレンド基調に変化はありません。ですが、短期間(6カ月以内を指します)で考えた場合は少し波乱が起こりそうですね。大事なのは、短期でのアップダウンの幅はどうしても大きくなりがちですが、そういったブレを冷静な目でとらえ、長期的なトレンド、みなさんの投資の時間軸をあわせて考えて投資行動を決定することが大切です。