更新日: 2019.08.07 その他資産運用
<柴沼投資塾>時事ネタ編②。グローバルマーケットの方程式と機関投資家動きを読む!
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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北朝鮮から近い日本なのに円が上昇する不思議
筆者もクライアントからよくいただくご質問ですが、とくに最近多いのは「有事の円買い」についてです。
有事というと、「政治的・軍事的なイベントがあって、世界がどうなるかわからないという不安」を指しています。これまでは、そういった不安要素はギリシャの財政不安など欧州や産油国アラブ諸国での軍事介入やそれに伴う原油生産量の不安定化などが挙げられ、地理的に日本から離れていたため、「あまり被害は受けないだろう」という意味合いで円という通貨が選好されていた、と考えられていました。
これに対して、今回の不安種は北朝鮮です。日本と地理的に近く、攻撃のニュースがはいれば、円が暴落してしかるべきなのに、どうして円高になるの?というものです。
その通りですよね。そんな危ない通貨の価値が上昇するのは考えにくいですが、これはグローバルマーケットにおける、方程式のようなルールができあがっていて、それにそった動きをしているからであると考えられます。
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「投資家って素直ではない」という前提
一般の個人投資家ではなく、大口のお金を取引している機関投資家は、素直ではないと思ってください。私たちは、安いところで買って高くなったら売る、という、「当たり前の普通の投資行動」を思い浮かべますよね。
これに対して、機関投資家には「売りから入る」という考え方による行動パターンが多々見受けられます。私たちから見れば若干の抵抗はありますが「株はないのに、売って、安くなったところで買い戻す」という考え方です。株をもっていないのに、100円で売る約束をします。そしてその株が50円になったところで、(もっていない)株を50円で買い戻し、売却価格との差額50円という収益を得ようとするのです。「カラ売り」という言葉を耳にしたことがあるかと思いますが、この手法を使って大きく収益を得ているのです。
これまで円を売っていた投資家が買い戻しているから
機関投資家の動きの1つの方程式として、カラ売り、いわゆるショートポジション(これに対して素直に買う場合を「ロングポジション」と言います)があります。これまでの円安状況。つまり、「円はもっと安くなる。その理由はこれから好調な米国経済から米国では利上げが予想されている。金利差が開けば、高い金利がついている通貨のほうが選好されることになるだろうから、将来的にはもっと円の価値が下がるはず。今のうちに円を売って、円の価値がもっと下がったら買い戻そう」という動きになるのですね。
しかし、トランプ政権運営がもたついていることや北朝鮮がどうなるかわからない、ということでこれまで機関投資家が考えていたシナリオ通りに動くとは言い切れなくなってきました。彼らの投資行動の前提が逆になりつつあるわけです。そうなれば、リスクを抑えるために、反対の動きをしておかなければなりません。これが今、みられている「円売りポジションの巻き戻し」という行動で、このために、日本にとっては有事であるにもかかわらず、円が上昇しているのです。
政治的なイベントや要人発言は長くは続かない
ただ繰り返しお伝えしている通り、政治的イベントや要人発言、国際紛争によってグローバルマーケットがかく乱されるのは、サーフィンで言えば、ビッグウェンズディのようなものであるということです。その場の衝撃は大きいけれど「長くは続かない」「相場のトレンドを転換させるほどの力はない」ということです。もちろん、政治・軍事・国際イベントによって経済状況がかわってしまうリーマンショックのような超メガトン級のアクシデントもなくはないですが、きわめて稀です。相場を動かすのは、「利益成長」であることをもう一度ここで言及しておきたいと思います。