更新日: 2019.12.05 介護

有料老人ホームへの支払い 「月払い方式」と「入居一時金方式」

執筆者 : 黒木達也

有料老人ホームへの支払い 「月払い方式」と「入居一時金方式」
苦労して探した結果、介護付き有料老人ホームへの入居がようやく決まり手続きとなった際に、ホームの側から「支払いは月払い方式にしますか、それとも入居金一時金方式にしますか」と経費の支払い方法を聞かれることがあります。それぞれに長所・短所があるので、検討してからどちらを選ぶかを決めましょう。
 
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

家賃分を毎月払うか、一括前払いするか

介護付き有料老人ホームと入居契約をすることは、その利用権を買うことになります。老人ホームでかかる諸費用、具体的には部屋代、食費、光熱費、管理費、介護費用などさまざまあります。この経費の支払い方法として、大きく分けて2つあります。
 
まず「月払い方式」です。月々に発生した費用を毎月ごとにすべてを支払う方式で、入居時に多額の資金を用意する必要はありませんが、月々に支払う金額は多くなります。
 
これに対して「入居一時金方式」は有料老人ホーム特有の支払い方法で、入居時に家賃の全部または大部分を一括前払いし、入居後は家賃部分の負担を減らす方式です。入居時にまとまった金銭が必要ですが、月々に支払う金額は少なくて済みます(住宅型有料老人ホームなどでは、居室そのものを購入する方式もあり)。
 
どちらの方式を選択すべきか、入居する人の状況によって変わってきます。どちらが良いということは一概にはいえません。ただ入居期間が長ければ長いほど、入居一時金方式を選択したほうが有利になりそうです(図表参照)。
 

 
典型的な例を挙げておきます。図表のケースでは、入居期間5年程度で支払総額がほぼ同額になります。一般的には、入居期間が短いときは月払い方式が、入居期間が長くなれば入居一時金方式を選択するのが有利といえます。
 

月払い方式を選ぶための条件は

どちらかを選ぶかの選択基準は、どこにおくべきでしょうか? 確かに入居期間の長短は入居時点ではなかなか判断できません。高齢の方でも入居してから長く生存する人もいますし、若い年齢で入居しても早く亡くなる方もいます。
 
一般的には、すでに病気があり余命がある程度わかっている方や、90歳を過ぎてから入居する方は、月払い方式が望ましいといえます。余命が3年といわれている、100歳までは生きるのが難しいなど、入居時点で「5年以上は無理」と考えれば、月払い方式を選択するのが賢明です。
 
また、過去に別の施設へ入所しなじめなかった経験があり、早期退所もあり得ると考えていれば、月払い方式も選択肢になります。
 
しかし当面の入居一時金は用意できないとの理由で、月払い方式を選択するのは、なるべく避けたほうがよいと思います。月々の支払額も多額になる上に、長期間入居することになれば、それだけ負担が大きくなるからです。
 
特に老人ホームに入居すると、日々の食事管理や健康管理が十分になされることでストレスも減り、寿命が伸びることがよくあるからです。入居した親世代の経費を、子ども世代が支払っているようなケースでは、長寿を手放しで喜べないジレンマに陥るからです。
 

長期入居には一時金方式だが

致命的な持病もなく70歳代で入居する人や、自立を前提として有料老人ホームへ入居する人にとっては、入居一時金方式を選択するほうが有利と思われます。先の寿命はわからないにしても、5年以上は生きる可能性が高い場合は、月払い方式ではかなり不利になるかもしれません。
 
しかし、入居一時金方式にも注意する点があります。入居した有料老人ホームが、介護職員の不足や放漫経営などにより経営破綻した場合、入居一時金が戻ってこない可能性があるからです。
 
10年近く入居していたのであれば、それほどのダメージにはなりませんが、入居後1~2年でこうした事態に直面しては一大事です。それを防ぐためには、入居する予定の老人ホームの経営母体や経営姿勢を調査し、さらに契約書を見て、入居一時金の保全体制が十分かを必ず確認しましょう。
 
老人ホーム業界は参入事業者も非常に多く、玉石混交の状態です。少ない原資でも経営に参画できるため、介護の実情や専門知識に乏しい異業種からの参入も日常的です。実際に倒産や他社への譲渡なども、頻繁にみられる業界であることは認識しておきましょう。
 

入居一時金はブラックボックスの側面も

長期入居に有利な入居一時金方式ですが、経営が健全で10年以上入居できる、という条件があれば問題はありません。ところが、入居後すぐに亡くなったり、他に転所したりする際に、どのくらい一時金が戻るかが問題です。初期費用となる部分は、経営側の判断で自由に使える資金になるためです。
 
例えば、入居一時金が1000万円で2年以内に退所した場合、1年100万円の償却で800万円戻れば大歓迎ですが、実際はそうなりません。1000万円の入居一時金を納めると、多くの場合、3割の300万円が初期費用としてホーム側に入ります。
 
残った額を5~7年で償却します。通常行われている5年償却を前提に考えると、事情により2年で退所すると、1000万円から、初期費用300万円、2年償却分280万円を引かれて、420万円しか戻らない計算です。初期費用の金額と償却期間は、入居時に必ず確認しましょう。
 
以前は初期費用が5割を超える施設もあり、消費者庁が問題視し指導がなされ、「月払い方式が望ましい」との結論を出し、初期償却比率と償却期間を是正する動きがありました。
 
それでも、これまでの慣行と長期入居を希望する利用者ニーズがあり、過度な初期償却をしないとの条件付きでこの方式は続いています。入居者の年齢に応じて初期償却の比率を変えている施設もあります。
 
ただし東京都は指針として、入居一時金の初期償却を認めていないため、この方式を継続している大手が経営している有料老人ホームに対しても×印をつけ、入居希望者に注意を喚起しています。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト