更新日: 2020.05.25 その他

韓国の激しい受験戦争。若者の賃金や生活はどうなっている?

執筆者 : 黄泰成

韓国の激しい受験戦争。若者の賃金や生活はどうなっている?
日本でもニュースで韓国の受験戦争が報道されます。その激しさに驚いた人も多いのではないでしょうか。特に今年は、受験日前日に地方都市で地震が発生したことから、急遽受験日を1週間延期したことでも注目を浴びました。
黄泰成

執筆者:黄泰成(こう たいせい)

公認会計士(日本)

スターシア・グループ代表
慶応義塾大学経済学部卒業後、大手監査法人へ入社し、アトランタや韓国での駐在を経験。
2007年、日本に韓国ビジネス専門のコンサルティング会社(株式会社スターシア)を、
韓国に株式会社スターシア・コンサルティング(現)を韓国初の日本資本の会計事務所として設立。2017年にグループ会社として、韓国に税務法人スターシアを設立。
「日本の会計士として日系企業の期待を充分に汲取り、その期待を超え続けるサービスを提供する」という考えのもと、日系企業による韓国ビジネスの成功をサポートしている。

韓国の大学入試の実態

韓国の大学入試は、毎年11月中旬の木曜日に行われる「大学修学能力試験」で実質的に終了します。
これは、日本のセンター試験に相当するものと例えられていますが、大学ごとの独自問題の入学試験がないことから、日本のように複数の大学を併願することができず、この試験一つで大学進学(しいては人生そのもの)が左右されます。
 
そのため、大学修学能力試験当日は、国全体に緊張感が漂い、地下鉄の駅周辺に受験生のためのパトカーやタクシーが配置されたり、騒音防止のために飛行機の離着陸が調整されたりと、社会全体で受験生を優先します。
 

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受験戦争の理由

韓国の受験戦争がなぜここまで苛烈を極めるのか。その理由には「良い大学に行き、良い会社に就職しなければ、人生の負け組になる」という社会の風潮があります。
歴史的に韓国は儒教を国教としていました。
 
また、科挙制も導入されていたことから、「勉強して偉い人になりなさい」という価値観が強く、伝統的に勉学に勤しむという風土があるように思えます。
 
その一方で、体を使う職業は卑しいものと蔑まれたことから、職人が尊敬される土壌が希薄です。この点が、日本とは異なる点といえます。これを反映して、韓国では非常に高い大学進学率を記録しています。(韓国:93.18% 日本:63.36%  2015年UNESCO統計ベース)
 

低成長時代に突入した韓国で、若年失業率が社会問題化

韓国の2016年のGDP成長率は2.8%。低成長期を迎えました。過去の日本と韓国のGDP成長率を比較すると、20年の時間差をもってほぼ相似形を描いています。つまり、現在の韓国は20年前の日本の状況と似ているといえます。
 
2017年10月度の失業率は3.2%で日本の2.8%と比較するとそれほど高い数字ではありません。
 
しかし、15〜29歳までの若年層にかぎっていうと8.6%と事態の深刻さが分かります。また「体感失業率」は、21.7%という極めて高い数字になっています。
「体感失業率」とは、アルバイトをしながら就職活動をする人や入社試験に備える学生などを含めた雇用補助指標で、失業率の統計に表れない実質失業者を含めたものです。
 
前述のとおり、「良い大学に入って、良い会社に勤める」ことが人生の勝ち組という大きな価値観があります。日本でもそのような風潮はないことはありませんが、その想いの強さは比較対象にならないほど強いです。
 
自分の子供を勝ち組にすべく、幼少期から多額の費用を払って塾通いをさせます。韓国では、小学受験、中学受験、高校受験がないため、高校3年生の11月に照準を合わせて全ての子供が勉強するわけです。このことからも、いかに修学能力試験が一大事かわかると思います。
 
このように幼少期から価値観が画一化され、親からのプレッシャーも受けながら、無事に良い大学に進学したとしましょう。
その次に立ちはだかるのが、就職試験です。韓国では「良い会社」=「大企業」=「財閥」となるので、当然に財閥系企業に若者が殺到します。
日本のように優良な中小企業群が充実しているという産業構造でもなく、さらに低成長時代が追い打ちをかけ、財閥企業への就職は大学入試以上の非常に狭き門になっています。
 
その結果、大学生は「スペック」を揃えることに躍起になります。TOEICは900点以上が基本とか、ボランティア活動は何をしたとか、資格は何を持っているとか、表彰歴はなにがあるか、等々です。
 
ここまでしても、望みの大企業に就職できない学生が大量に発生します。日本的感覚からすると、中小企業でもよいので就職するという方向に進みそうですが、そうはなかなか問屋が下ろさないようです。
 
まず、本人の問題として、小さい頃から「良い大学、良い会社」という価値観を刷り込まれているので、中小企業で働くことに自尊心が許さないという面があります。
また、親の立場からも、膨大な教育費をかけて育てた子供が薄給の中小企業で働くということを許しません。
 
たとえ、親が許したとしても、子供の立場から「親の期待を裏切りたくない」という心情で、就職浪人を選ぶ人も多いと聞いています。
 
大企業が無理なら、国家資格や公務員になろう、と考える人も多く、その試験向けの予備校が繁盛しているという話も聞きます。
 
これは余談ですが、過去、日本大使館で電話番をする事務員を募集したところ、予想をはるかに超える応募者があり、しかもそのほとんどが高学歴、高スペックの非常に優秀な若者だったそうです。
 
つまり、仕事の内容よりも、「外国の大使館で働いている」という肩書きが重要視されているのではないかということです。
このような背景や価値観が、若年層の失業率を高めている一因になっているのではないでしょうか?
 

韓国の若者の懐事情

韓国の初任給は一般的に、大企業だと新卒で年収250万円前後、中小企業だとその2割くらい低いイメージです。
大企業に入れば若くして年収1000万円以上も夢ではありませんが、一生激しい競争を生き抜いていかなくてはなりません。
 
ソウルの物価は、ある調査によると世界第6位に位置します。ちなみに、東京は第3位です。なんとなく、韓国は物価が安いイメージがあるかもしれませんが、そんなことは全くありません。
 
例えば、スターバックスのトールサイズの今日のコーヒーは、日本では320円ですが、ソウルでは約400円と2割以上割高です。ランチも質を落とせば、500-600円ですが、ちょっとでも良いものを食べようとすると途端に1500円くらいします。
 
ソウルの住宅事業も一部では日本より高く、一般的な若い人がなかなかソウルに家を持てなくなってきています。]
 
また、持ち家だけでなく韓国特有の賃貸制度が邪魔をして、賃貸物件でもソウル市内で新婚夫婦が物件を見つけることが難しくなってきているようです。
ソウルで家を持つには、やはり激しい競争を勝ち抜かないといけないのです。
 
そんな韓国では伝統的に、割り勘文化がなく、ご飯を食べたら年長者が全てを払うという習慣があります。これも儒教の影響なのだと思います。お金の少ない若者にとってはありがたいことですが、その若者が成長し後輩ができたときには、その後輩におごってあげるという、世代間にまたがってのお金の流れというか、互助組織というか、そういう人と人とのつながりの深さがあります。
 
最近こそ、割り勘にするケースも増えてきているようですが、濃密な人間関係が韓国の強みでもあるし良い点だと思うので、この習慣はこれからも残っていって欲しいと思います。
 
Text:黄 泰成
公認会計士(日本)、スターシア・グループ代表