更新日: 2019.01.11 インタビュー

人生100年のビジョンマップ ~心もお財布も幸せに生きよう~ PART8

LIFE MAP合同会社 代表 竹川美奈子さんに聞く– 第3回:資産形成とは人生の選択肢を増やすこと

Interview Guest : 竹川美奈子

執筆者 : 山中伸枝

LIFE MAP合同会社 代表 竹川美奈子さんに聞く– 第3回:資産形成とは人生の選択肢を増やすこと
人生100年時代と言われるようになりましたが、果たして私たちはビジョンを持って「人生100年」を受け止めているのでしょうか?
 
この対談企画では、様々な分野の方にお話しをお聞きし、人生100年時代のビジョンを読者のみなさんと作り上げていきたいと考えています。第3回目は、資産形成とは何か?という本質についてファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんにお話しをしていただきます。
 

Interview Guest

竹川美奈子

竹川美奈子(たけかわ みなこ)

大学を卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立。2000年にFP(ファイナンシャルプランナー)資格を取得。新聞・雑誌などで取材・執筆活動を行うほか、投資信託やiDeCo(個人型確定拠出年金)、企業の従業員向けマネープランセミナーなどの講師を務める。
 
「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」という個人投資家の交流会の幹事を務めるほか、「1億人の投信大賞」の選定に関わるなど、投資のすそ野を広げる活動に取り組んでいる。
 
『改訂版 一番やさしい!一番くわしい!はじめての「投資信託」入門』『一番やさしい!一番くわしい!個人型確定拠出年金 iDeCo 活用入門』(ともにダイヤモンド社)ほか、著書多数。2016年7月~金融審議会「市場ワーキング・グループ」委員。
 

山中伸枝

Text:山中伸枝(やまなか のぶえ)

ファイナンシャルプランナー(CFP)

株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 
1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーとして、講演・相談・執筆を中心に活動。

人生の優先順位、お金が真っ先に来てほしくない

山中:なぜ私たちは資産形成をしなければならないのでしょうか?という問いに対しての、竹川さんの答えは何なのでしょうか?
 
竹川:ふたつあります。ひとつは選択肢をふやすこと。
 
山中:お金があるということは、自分の人生の選択肢を増やすことだよってことですかね。
 
竹川:人生が長くなり、働く期間も長くなっています。企業研修でも50歳前後でセカンドキャリアをどうするかがテーマになることが多いです。どこで、だれと、どんなふうに暮らそうか、働こうかを考えるときに、その判断基準のひとつ目にお金がくるのはできれば避けてほしいな、と思うんです。
 
例えば、「やりたいことがあるから今の会社に残る」のはいいと思いますが、「(転職すると)給料が下がるから今の会社に残るしかないか」というのはあまり前向きではないですよね。とくに人生の後半、自分がどうありたいかを考えるときに、選択肢がふやせるということではないではないでしょうか。
 
山中:おっしゃる通りですね。
 
竹川:もうひとつは、自分自身の人的資本(将来の収入の割引現在価値)、稼ぎ力の総和は年代とともに下がっていきます。長く働き続けられるようにキャリアを築くとか、スキルを身につけることはもちろん必要ですが、人間国宝ではないので、死ぬまで現役というのは現実には難しい。だから、稼ぎ力のあるうちに、稼いだお金の一部を金融資産にシフトしていくことが大事です。
 
なるべく若いうちから、稼いだお金の一部を貯蓄や投資に回すことで、金融資産を積み上げていくことの大切さに、なるべく早い時期に気づいてほしいです。
 

みんな同じと思い込んでいる会社員は、今すぐバランスシートを作成せよ

山中:竹川さんが今のような考えに至るきっかけって、なにかあったのでしょうか。
 
竹川:やっぱり、独立したことが大きいですね。将来受け取る老齢年金も会社員を続けた場合と比べて少なくなりますから。小規模企業共済や個人型確定拠出年金など、利用できる制度は極力使おうと思いましたし、貯蓄に加えて積立投資を継続しようと考えました。
 
山中:そういうことは、会社員でいるときにはなかなか気付けないことですね。
 
竹川:かなり個人差があると思いますね。例えば、研修で、皆さんにバランスシート(B/S)を作ってもらう機会があります。仮に同じようなお給料を受け取ってきたとしても、資産や負債、資産から負債を差し引いた純資産(正味財産)は、1人ひとり、各ご家庭でかなり違います。
 
住宅ローンを完済してそれなりの金融資産があるご家庭もあれば、まったく逆のケースもあります。モデルや平均値ではなく、我が家の場合はどうなんだろう、というふうに考えることが必要ですね。
 
1年に1回でもいいので、バランスシートを作って「金融資産が積みあがっているか」「負債が圧縮できているか」を確認し、リタイアに向けて健全なバランスシートを作っていこうと意識することが大事。最近はアプリもあるので、利用してもいいですね。数値化する・見える化することで、お金に対する意識は画期的に変わると思います。
 
本来は将来の稼ぎ力がある若い世代はリスクをとって投資をしていく。そして、リタイアしたら、リスクを下げる必要があると思いますが、実際には逆になっていることが多いです。まったく投資したこともないのに、退職金でいきなり投資をしてしまう…。
 
山中:投資の退職金デビューですね。
 
竹川:1000万、2000万といった大金で投資信託を買ってしまったり…。
 
山中:そうですね。金融機関も退職者を明らかに最初からターゲットにしているところもありますからね。
 
竹川:資産形成ができていれば、退職金は投資に回す必要はなく、これまで積み上げてきた金融資産の運用を継続するだけでいい。むしろ退職金は運用しないのが理想だと思います。預金や個人向け国債においておくくらいで。
 
リタイア時の金融資産をもとに、仮にリタイア時の年齢から95歳まで生きたとして、一年間に使えるお金のおおよその金額は分かります。よく調査で、老後資金がいくら必要ですよ、と言われますがそれは全くあてになりません。
 
山中:確かに、現状把握というところ、意外とないがしろにしているかも知れませんね。
 
竹川:家計の現状把握とともに、公的な保障も、そして会社員なら企業内保障も調べておく必要がありますね。結構手厚い方もいらっしゃいますので。
 
山中:でも定年まで、現状把握もそうですが、将来へのプランのない方もいて、もったいないな~と思うこともあります。
 
竹川:一回棚卸をしたらどうでしょう。仕事のこと、住む場所、お金のこと。50歳になったら「ねんきん定期便」に見込額が記載されますから、いくら受け取ることができるか確認する。
 
退職一時金や企業年金についても、「いつから」「どのように」「いくらくらい」受け取れるのか調べてみる。まずは入ってくるお金を整理して、その上で受け取り方を検討するとよいですね。例えば、公的年金を繰り下げ受給するかどうか、といったことです。
 
そして、どこで・どんな暮らしをするかによって支出は変わってきますから、「出ていく」お金についても考えてみましょう。要は、これから生きていく上で、価値観や優先順位をはっきりさせることが大事かもしれませんね。
 
山中:人生との向き合い方って、もしかしたら男性と女性とでは違うかも知れないと思うのですが、女性に向けてのメッセージっていただけませんか?
 
竹川:最近、女性だからと意識することが減っている気がします(笑)。昔は歳を取ることをあまり前向きにとらえていなかった気がしますが、それなりに年を重ねてみると「歳をとったほうがむしろ楽しい」と思いますね。公私ともに、20~30代の頃のほうが「これからどうしよう」と悩んでいたような気がします。
 
家族の病気のことなどもありましたが、私は仕事に救われた部分もあるかな。女性の方が人生の選択肢が多いので、悩むことも多いと思いますが、できれば、どんな形でも仕事は続けてほしいな、と思います。
 
働いて資産形成もしながら、自分らしく生きられる方向に向かうとよいですよね。キャリアも人生も資産形成も一直線には行かないので、悩みながらも目の前のことを一生懸命に取り組んでいけば、道は拓ける気がします。
 
山中:すべてに通じる真実ですね。
 
Text:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)

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