更新日: 2019.01.11 インタビュー

超高齢化社会を迎える日本 これからどんな社会が到来するのか!今、私たちがするべきことは?

Interview Guest : 駒村 康平(慶應義塾大学経済学部 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長/教授)

執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部

超高齢化社会を迎える日本 これからどんな社会が到来するのか!今、私たちがするべきことは?
ファイナンシャル・ジェロントロジーとは、長寿・加齢によって発生する高齢者の経済課題に対して、解決策を導き出す新しい研究領域です。高齢者の経済課題とは、高齢者の経済活動、資産選択などを指し、経済学を中心とした研究分野と連携して、分析、研究します。

その研究機関のひとつが「慶應義塾大学経済研究所ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター」。長寿・加齢がもたらす社会経済の諸問題に対して、処方箋を開発・提言することを目的としています。

今回は、ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長、慶應義塾大学の駒村康平教授に、日本で起こっている高齢化の問題と今後についてお話をお伺いしました。
 

Interview Guest

駒村 康平(慶應義塾大学経済学部 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長/教授)

駒村 康平(慶應義塾大学経済学部 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長/教授)(こまむら こうへい)

慶應義塾大学経済学部 教授
慶應義塾大学経済学部 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長

博士 経済学 専門:社会保障、社会政策

1995年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学

国立社会保障・人口問題研究所研究員などをへて2007年4月より現職

著書に「年金と家計の経済分析」(東洋経済新報社)、「福祉の総合政策」(創成社)、「年金はどうなる」岩波書店、「最低所得保障」岩波書店、「日本の年金」(岩波書店)、「中間層消滅」(角川新書)、「社会政策」(有斐閣)など

受賞:日本経済政策学会優秀論文賞、吉村賞、生活経済学会賞他

主な公職

2009-2012年厚生労働省顧問

2010-現職 厚生労働省社会保障審議会委員(生活保護基準部会会長、障害者部会会長、年金部会委員、年金数理部会委員、人口部会委員、生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員)

2010年 内閣府社会保障改革に関する有識者検討会副会長

2012-2013年 内閣社会保障制度改革国民会議委員

FINANCIAL FIELD編集部

Text:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)

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これから日本でどのような変化が起こりますか?

主に3つの変化が挙げられます。
 
1つ目が「寿命の伸長」。

日本人の平均年齢が延びているのはご存じかと思いますが、今後も延びていくことが予測されます。団塊ジュニア世代あたりから「人生90年時代」に到達し、今後の医療技術革新によって、21世紀生まれは半数の人が「人生100年時代」になる可能性も出ています。
 
2つ目は「年金受給期間の伸長」です。

1960年に国民年金を設計した当時は、男性の寿命は70歳でしたから、65歳から受給して5年間年金を受け取る想定で制度がつくられました。人生90年になるとその想定は大きく外れています。特に女性の寿命は今後95歳に接近します。現状制度のままでは40年間保険料を支払い30年間年金をもらうという構造になります。
 
3つ目は「医療費、介護費の増加」です。

65歳以上の高齢者の中でも、75歳以上の方の比率が右肩上がりで伸びています。現在の65歳以上の高齢者全体における75歳以上の割合は約50%ですが、今後は60%を超える勢いで伸びていく予想です。75歳以上の高齢者が増加すると、医療費、介護費も増加していきます。
 

超高齢者社会はいつごろくるのでしょうか?

2025年に一段階高齢者が増え、2040年頃から、団塊ジュニアが65歳になり、もう一段階高齢者が増えます。団塊世代の方が一部が生きている間に、団塊ジュニアが高齢者になるというわけです。
 
専業主婦モデルの団塊世代と、未婚率・非正規雇用率・年金未払い率が高く、就職氷河期を経験した団塊ジュニアのどちらも高齢者になるので、社会保障給付費は急増します。年金財政については、財政を維持するために、高齢者の増加分と現役世代の減少分に連動して、年金水準を切り下げることになっています。一部の推計では、単身高齢女性の半数が生活保護以下の収入になり、生活保護が急増する可能性もあります。
 

年金受給額は下がりますか?

公的年金には「マクロ経済スライド」が導入されており、高齢化率の上昇に連動して、給付水準が抑制されます。
 
対賃金上昇率で、国民年金(基礎年金)は毎年1%ずつ30年間引き下げられ、今よりも30%は年金価値が下がる見込みです。また、厚生年金は30年間で20%下がる見通しです。
 
年金は物価連動ですから、政府の政策目標通り、インフレになると給付の切り下げが始まります。例えば、物価が2%上昇し、年金給付額を1%だけ引き上げれば年金は実質1%下がりますが、手取りは下がらないという仕組みです。これが2004年の年金改革で導入されたマクロ経済スライドです。
 
しかし、この方式はデフレ状態だとできません。そこで、マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度が2016年に導入されました。
 
これは、デフレでマクロ経済スライドが実施できない期間の給付引き下げ分を、物価が上がった時にまとめて引き下げる仕組みです。これをやらないと、デフレ期間は給付引き下げができないので、その給付カットのツケが若い世代に回るからです。
 

将来の介護費にも大きく影響する「認知症」は重要な問題

今後の介護費に大きく影響するものとして、認知症が挙げられます。認知症は他の病気に比べて、見守りが必要なので、コストが大きくかかります。
 
「平成29年高齢社会白書」内閣府(2017)によると、2060年には65歳以上の認知症患者は800万~1200万人になると推定されています。糖尿病など認知症のリスク要因が低下しないと、最悪の場合、人口の10人に1人が認知症という計算です。高齢者の認知機能の低下をどう食い止めていくかが、今後の大きな課題となっていきます。
 
高齢期でも、働いたり、ボランティアなど社会活動していると認知症リスクが低くなるとされています。
 
定年退職後に、昼間からお酒を飲んでテレビばかり見ているなどの生活習慣が続くと認知機能を使わなくなるので、認知症リスクが高くなると思います。
 

認知機能が落ちるとはどのような状態か?

「加齢行動経済学(仮説)」という観点でみてみましょう。
 
高齢者は加齢によって、認知機能が低下します。病気などによって認知症まで至らなくても、判断能力は緩やかに低下し、過去の経験や直感でものを判断する傾向が出てきます。
 
すると、「フレーミング効果(表現の仕方によって決定が左右される)」の影響を受けやすくなります。例えば、「600円の商品が今なら400円に!今日だけです!」などと言われると、割安感だけで不必要なものを買ってしまう可能性が高まります。
 
認知機能が落ちた75歳以上の高齢者の特徴を以下にまとめます。
 
・多くの選択肢に対応することが難しくなり、わかりやすい情報とシンプルな選択肢を好むようになる。

・意思決定を延長する傾向が強く、選択しなかったことの後悔を感じることが少ない。しかし、保有効果(いったん保有したものを手放したくない気持ち)は強くなる。

・ポジティブな出来事や情報を記憶し、ネガティブな情報は忘れる傾向に。

・将来の展望ではなく、過去を振り返る視点に立ち、事業継承・資産管理など、意思決定のタイミングが遅くなる恐れがある。

このような高齢者の判断力低下につけ込んだ取引や、ビジネスの蔓延が予想されます。
 
それに対して、高齢者が増加した社会に相応しいビジネスのルールをつくるなどし、食い止めることが今後の課題となるでしょう。最近ではこのような高齢者を保護するため、消費者契約法も強化されました。
 
高齢者の増加は、「個々人が正常な判断力を持ち、自分に必要なものを理解している」という前提のもと、「欲しい人に欲しいものを供給する」という従前の自由経済の考えでは対応しきれない問題を生みはじめています。判断力が不十分な人が増えているという前提で市場のルールを見直す必要が出てきました。
 

高齢者に偏る日本の金融資産

日本の金融資産は高齢者に偏っています。特に有価証券等の保有者は50%が70歳以上です。
 
高齢者ほどリスク性資産への投資の割合が大きくなりますが、その要因は主に二つ。お金がないと分散投資ができないため、年齢と共に金融リテラシーや投資経験が積まれるためです。
 
しかし、他方で、次第に認知機能が落ちる75歳以上が、多くのリスク性資産を保有していることには問題があります。認知機能が落ちた75歳からの金融資産運用は危険を伴います。
 
高齢者の資産運用をどのようにサポートするかが課題です。
 
そのほか、成年後見制度では、管理している資産の積極運用を認めていませんが、この点どうするか、金融資産運用を認めるのか、これから考えなくてはいけない問題のひとつです。
 
また日々の銀行口座の利用でも、高齢化に伴う問題が出ています。取引やパスワードを忘れてしまう高齢者が増えています。すでに、イギリスの大手銀行では、認知症専門のサポートが始まっています。
 
パスワードではなく、カードとサインで取引できたり、引き落とせる上限額を認知機能の低下に連動して引き下げるように設定できるようになっています。
 
その他にも、声紋での本人特定サービス、特別窓口の設置、家族に取引記録の送付など、認知機能の低下を支える金融資産管理の仕組みができはじめています。
 

老後に向けて私たちが今するべきことは?

まず私たちがするべきことは、社会保障制度の動向を把握し、老後の足りない金額を試算しておくことです。
 
現在、国が若い世代にiDeCoやNISAをすすめる理由は、公的年金に過度に依存しないでほしいという考えからです。
 
高齢化でも年金財政自体が破たんすることはありません。公的年金が全くもらえないというほど過度に悲観的な予測をするとそもそも老後設計ができなくなります。
 
しかし、マクロ経済スライドで給付水準が下がるため、今よりももらえる年金水準は少なくなります。物価や賃金の上昇率ほど年金額が増えないから、実質価値が下がるからです。将来自分はどれだけ年金をもらえるかというところまで落とし込んで理解していない人が多い印象です。
 
特に団塊ジュニア世代より若い世代は、まだ時間もありますが、事前にどれだけお金が足りなくなるのかをしっかりと把握しておかないと、将来への漠然とした不安と社会保障制度に対する理解不足で慌ててしまうことになります。
 
自分の世代、家族構成だと、どれくらいの金額が必要になり、公的年金はいくらもらえるのか。医療、介護の負担はどの程度になるのか。
 
足りない部分をどう埋めるかということを、マクロ経済スライドも加味して把握することが重要です。また、その際は2040年頃には現行水準より1.5~1.6倍ほど介護保険料、医療保険料が上がる可能性も加味しておきましょう。
 
人生90年時代になると、老後の資産寿命と健康寿命を延ばしていくことも視野に入れなくてはいけません。
 
社会保障費の絞り込み、介護費負担の増加が考えられるので、65歳になっても働ける人は働き続ける、もしくは金融資産運用で資産を増やしていく試みも必要だと考えます。
 
若いうちにリスクのある商品の運用を経験し、年齢を重ねていくとともに低リスクの商品を運用するのが望ましいのではないでしょうか。
 
また、現在毎年120万人程度の方が亡くなり、そのうち20万~30万人が在宅で亡くなっています。今後は、社会保障給付費の伸びを抑制するため医療や介護施設はあまり増加させないと思います。
 
2040年には、年間で170万人の方が亡くなりますが、そのうち50万~60万人は在宅で亡くなることになると思います。自身の介護や家族の介護についてイメージが必要になります。
 
在宅医療や在宅介護を選ばざるをえない可能性が出てくるのです。在宅医療や在宅介護は費用面だけでなくさまざまな面で負担がかかります。健康寿命を延ばし、できるだけ医療や介護を必要としない期間を増やしていくことも大切かもしれません。
 
何より、老後の対策は早めに動いておくことが肝心です。高齢になると多くの方の認知機能が低下します。最悪の場合は認知症になります。
 
認知症が深刻になると、本人が症状を認識できず、判断力も低下するため、「なってからどうするか考える」では手遅れになってしまいます。
 
自分の判断力がしっかりしているうちに、これから起こり得る問題の対処を決めておいたほうがよいでしょう。「自分はそんなに生きない、生きたくない、考えたくない」というのが一番まずい対応でしょう。
 
Text:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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