更新日: 2019.01.11 インタビュー

人生100年のビジョンマップ:心もお財布も幸せに生きよう!PART3

マネーセラピスト・安田まゆみさんに聞く (3)民事信託で願いを叶える

Interview Guest : 安田まゆみ(マネーセラピスト)

interviewer : 山中伸枝 / Photo : 新美勝

マネーセラピスト・安田まゆみさんに聞く (3)民事信託で願いを叶える
人生100年時代と言われるようになりましたが、果たして私たちはビジョンを持って「人生100年」を受け止めているでしょうか?
 
この対談企画では、様々な分野の方にお話しをお聞きし人生100年時代のビジョンを読者のみなさんと作り上げていきたいと考えています。
 
今回はマネーセラピストの安田まゆみ様にお話しを伺いました。今回はその3回目です。
 

Interview Guest

安田まゆみ(マネーセラピスト)

安田まゆみ(マネーセラピスト)

CFP認定者(国際資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)、NLPプラクティショナー、カラー心理カウンセラー。
 
1955年、東京生まれ。大学卒業後、雑誌編集者、外資系損害保険代理店を経て、96年からファイナンシャルプランナーとして活動を開始。
 
同時に有限会社マイプランニングオフィスを設立し、代表に就任。現在に至る。家計管理の相談の他、離婚後のお金相談も多く携わってきた。
 
近年は、老後不安からの老後マネー相談をはじめ、両親の「相続対策」「認知症対策としての任意後見契約」「老後の財産を守る個人信託」などの相談がかなり多くなってきている。
 
「元気が出る お金の相談所」所長、「一般社団法人エンディングメッセージ普及協会」理事長、「有限会社マイプランニングオフィス」 代表取締役。
 

山中伸枝

interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)

ファイナンシャルプランナー(CFP)

株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 
1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーとして、講演・相談・執筆を中心に活動。

新美勝

Photo:新美勝(にいみ まさる)

フリーランス・フォトグラファー

 

 

願いを叶える民事信託という選択肢

山中 老後の備えってことからいうと、相続とかエンディングってところも視野に入ってきますよね。
 
安田 そうなんですけどね、エンディングを意識するのは、必ずしも現役を引退したらっていうわけじゃないんです。エンディングノートは、いつから書いたらいいかっていうと、私は結婚したら絶対書きましょうと言っているんですよ。私、死別相談も結構あるんです。特に若い方だと何の準備も無いので、悲しみの中、様々な手続きに追われて、私のところに相談に来るのは死別から半年とか1年後。
 
判断力が弱っている間に、夫の生命保険金をめあてに、金融機関から保険加入を勧められるケースも多くて、ニーズに合っていない変な保険に入らされていることが多いんですよ。
 
だから、そうならないために、結婚したら、夫婦はそれぞれに対して、自分に何かあったときに、自分の大切なものをどう残していきたいのか、自分に万一の事があったらこんな風にお金を使って欲しいとかは考えてほしいんです。大切な人がいればそこに向けた手紙ぐらい書けるでしょ。
 
それを書くつもりで一番重要な所だけ書いておけば良いんですよーっていう話はしています。それがあるか無いかで残された人の人生変わってくるのよ。とにかく死はいつ訪れるか分からない訳で、それは自分のせいでも無い。だからこそ、何かひとつ残しておくっていうのは大事なんです。
 
山中 エンディングノートって、大切な人がいるのであれば書くべきなんですね。
 
安田 はい、その通り。子供が誕生したら、保険に入る人は多いじゃないですか。あれと同じだと思うんですよね。結婚したら、エンディングノートを書くっていうのが当たり前の習慣になったらいいよなって思っているんです。
 
山中 人が亡くなると銀行口座が凍結されるということはよく知られていると思いますが、高齢になり判断力が衰えてきた時のお金の問題も大きいですよね。ご本人がお金の出し入れできなくなりますから。
 
安田 そうなんですよね。判断能力が衰えてしまった人のために、成年後見制度があるのですけど、判断能力がなくなってから、後見を申し立てる法定後見の制度って、家族にとっては、不合理な点が多くて、私はあまり勧められません。
 
後見制度は、判断能力が低下してきた本人を保護し、財産管理を支援するものなんですけれども、「本人の財産を守る」という点では、最近は、極端なくらいにお金の使い方に制限があります。判断能力がなくなってから、後見人をつけるのでは、本人の元気だったころの意思は反映されないことが多いんです。
 
それを証明するものが無ければ、大金を持っていても、それを使うことができない。実際に、8000万円持っていた女性が脳梗塞で倒れて、マヒが残り、判断能力を失った。資産があるから、家族は、高級感のある老人ホームに入れようとしたら、家庭裁判所から、待ったがかかり、そのためにお金を使うことは許可できないと言われ、近くのこじんまりした老人ホームへと入居したという事例があります。
 
それは本人が元気なうちに望んでいた事なのか、家族が望むことであって、本人が望んでいたと言えるのか、と。家族にしてみたら、酷い話です。本人のお金なのに、本当の意味で本人の暮らしやすいことのためにお金を使えないのは、あまりに悲しい。そんな事例が全国で見受けられています。
 
判断能力があるうちに自分の後見人を決めて、契約を交わす任意後見契約でさえ、家庭裁判所で待ったがかかることがあります。任意後見契約には、代理目録をつけることが多いのですが、一般的な代理項目では、その人の暮らしまでは守れないことが多いんです。契約書の不備だと思います。
 
下手な任意後見契約書を作ったらダメなんです。書いてないことには、お金を使うことができない。任意後見契約でさえ、家庭裁判所から待ったがかかる。
 
山中 任意後見は、制約が多くて、結果ご本人の為ならないことが多いという事ですね。
 
安田 作り方の問題ですけれど、上手に任意後見契約を作っても限界があります。それは、任意後見では、資産運用と相続対策ができないということです。まず、贈与は出来ないです。相続対策のための不動産を購入します、などということも契約書に盛り込んだとしても実際は難しい。
 
任意後見では、例えば、老人ホームのグレードを書いて、家を売ってお金を工面してそのホームに入るとか、認知症であったて家族との旅行は引き続き行きたいので、そのためにお金を使ってほしいなど、具体的に書いた目録を作っておくと実行することができます。
 
その為には、本人のライフプランなりをしっかりヒアリングして、代理目録とは別な目録にしておいた方がよいわけです。
 
山中 でも、後見をするときそこまではなかなか考えられないし、できないですよね。
 
安田 そこまでのアドバイスもないですしね。でも本当はそこまでできれば、任意後見であってもかなり可能な範囲が広がります。少なくとも任意後見もFPなどライフプランを考えて組み立てられる人が関わるべきですね。相談者から、とある公証人さんが作った万人向けのひな型の任意後見契約書を見せてもらいましたが、ちょっとひどかったですね。
 
本人の暮らしに関する希望が全く記載されていないんです。これでは、法定後見と同じです。また、経験の少なく司法書士さんが作ったものも見たことがありましたが、これもダメでしたね。お尋ねすると、本人からライフプランとか聞いていないんですよ。あきれました。
 
私が携わる任意後見契約は、かなり時間をかけて、ご本人のライフプランに関する希望を聞くようにしていますから、それから比べると、すごくチープなものにみえました。何のための任意後見かとも思っちゃいましたね。
 
山中 確かに、予め決まった事はできますからね。でもやっぱり信託の方が自由度が高いんですよね。
 
安田 はい、そうです。私は信託とは「願いを叶える手段」だと思っています。
 
山中 ただ信託っていうと、まだまだ認知度が低いですよね。信託って信託銀行にいけばいいんですか?とかないですか?
 
安田 確かに、ホントみんな勘違いしていますね。民事信託は信託銀行とは関係無いし、投資信託でもない。特に信託銀行では、「家族信託」といった商品名があったりして、さらに紛らわしいことになっています。なので、間違わないように私はあえて「民事信託」としてお伝えしたいですね。
 

要は金額だけじゃなくて人間関係が大事

山中 具体的に、民事信託は誰にどういう風にすると作れるんですか?
 
安田 多く場合は、財産を持っている人が委託者として、財産の使い方の希望を契約書にして、それを受けて資産を動かす人が実行にうつすという仕組みを家族や親族などでつくるのですが、大きな金額を動かす契約書になるので、素人では作れません。プロに任せて作るのが一番です。
 
私が理事長を務める一般社団もエンディングメッセージ普及協会でも民事信託の契約書を作るお手伝いをしていますが、昨年は約50件のサポートをしました。民事信託の仕組みは、手段なんです。作ることが目的ではないのです。それを勘違いしている専門家もいますけれどもね。
 
財産を残す人の想いを叶えることが最大の目的です。ヒアリングに十分に時間をかけて、独りよがりにならないように、チームを作って、解決の方向を探っていきます。その中には、信託の仕組みをつくることも入りますし、遺言や財産管理委任契約を作ることもあります。
 
山中 少なくとも安田さんがおっしゃる民事信託っていうのは、お金の管理ができなくなった方の意思を尊重した体で、月10万円ずつお金を指定した人が使えますみたいな、単純なものではないということですよね。動けない方の為に代理人が100%想いを叶えてあげますみたいなイメージですよね?
 
安田 そうです。動けない、判断能力がなくなった人のために、願いをかなえる仕組みを作るということです。その際に気をつけなくてはならないことは、相続人の間で揉めないようにすること。できるだけ、事前に了解を取っておくっていう事なんですよ。
 
山中 その了解は誰に取るんですか?
 
安田 相続人です。相続人が、子供2人ならその子供たちに、信託を含めて、願いをかなえるために契約をすることを了解してもらって、できれば、信託では、受託者と受託者監督人などの任務についてもらうようにしています。
 
山中 要は当事者にするんですね。
 
安田 そうです!巻き込んでいきます。傍観者にはさせないようにします。
 
山中 要は最終的に利益を受けるだろう人達を当事者として仕組みの中に参加させて考えさせるのが民事信託という事で、いいんですよね。
 
安田 民事信託は、自由度が大きくて、必ずしも、そういう目的で作られないこともあるんですが、私は、できるだけそうしたいと思っています。判断力が衰えても、大丈夫安心してねっていうものが信託なんです。その為に私たちも信託研究会を作って、解決のための精度を上げようと日々ブラッシュアップしています。
 
山中 依頼は誰から受けることが多いんですか?
 
安田 私の携わるケースでは、圧倒的に子供世代からのオファーが多いです。
 
山中 そのタイミングではお父さんは、まだ元気な状態ですか?
 
安田 元気だけど、ちょっと判断能力が衰え始めている状況でのご相談が多いです。このままのんびりと構えていられない感じで、切羽詰まって、ご相談にいらっしゃいます。娘さんから話をしてもらって、親御さんが、じゃぁ娘に任せますっていうパターンが多いです。
 
山中 そういう意味では、FPが「信託」という手段もあるよとナビゲートする位置にありますね。
 
安田 まさにFPがその役目を担うのだと私は思っているんですよ。信託ってやっぱりその人の想いをかなえるわけだから、ライフプラン全体を見なくちゃいけないんですよ。
 
山中 要は金額だけじゃなくて人間関係が大事なんですっていう事ですね。
 
安田 そうそう。先ほども言いましたけど、信託は手段の一つに過ぎない。なので、信託っていう仕組みに先に走ってしまうと、人間関係がギクシャクしちゃうんですよね。そこに注意しないと何のために信託をつくったのかがわからなくなっちゃう。
 
もう作るのにうーんとか言って、これでいいのかなーとか、具体的にどう回していくかとか、悩みながらベースを作っています。それをチームで意見交換してさらに良いものにしていく。そんな過程で作っています。さらに私たちはオリジナルで別紙目録みたいなのを用意するんですよ。
 
契約書に盛り込めないこととかを明文化させ安心してくださいねって。そういう人の色んな想いをまとめて契約書プラス目録書だとか覚書とかいろんなオプションをつけて、完成させています。あと注意すべきは、公証役場に行かないって事ですかね。
 
山中 行っちゃいけないんですか?
 
安田 行っちゃいけないわけではないですが、私は、行かない。自己信託以外は、公正証書にする必要がないので、公証役場にはいきません。以前、公正証書にしようと思って、公証役場に信託の原案を作って持っていったら、数か月かかって、内容もチープなものに、書き換えられたという仲間がいましたので、公正証書には、しないですね。数か月かかっている間に高齢の方になにかあったら、誰が責任とってくれるのでしょうか。
 
山中 公正証書にしなくても、法律上の効力を失うって事は絶対に無いんですね。
 
安田 全く無いです。
 
山中 それは当人同士のちゃんと印鑑とかがあれば契約書ですから効力が発生するので、公正証書にはしないって事ですね。なるほど。みんなが当事者になるって確かに大事ですね。だっておじいちゃんの想いを叶えるためにお金を使うと、相続財産が減るんですもんね。
 
安田 だから関係者全てにおじいちゃんの為にお金を使っていいですね?っていう事を何度もやる訳です。遺産分割協議書はおじいちゃんが亡くなったあとに作るけど、民事信託はずっと手前。おじいちゃんが生きている時に想いを形にしてあげるんですよ。それをやるコーディネーターとしてFPは適任だと思うんですよ。
 
私はもっと多くのFPさんにやってもらいたい。信託については、勉強しないと正しい知識は持てないので、そういう状況で、お客様と接しているFPさんも多いから、全国行脚でもして伝えていきたいと思ってるんです。FPが知識不足で誤解していたら、SOSを発信している人たちが目の前にいても助けてあげられないです。
 
山中 金融機関ではないFPの存在価値ってあると思うし、またこの高齢者だけじゃなくて、障碍をお持ちの方たちも親が亡くなったあとの生活、これも実は信託で解決できることも多いですよね?
 
安田 はい、まさにそうです。信託で解決できることは多いです。
 
山中 海外だったら信託って当たり前のようにあるのに、日本はまだまだですね。みんながみんな信託って必要ないかもしれませんけれども、ある程度の財産があったり、判断力の無い家族がいる場合には、そういった事も覚えて頂くといいと思うし、安田さんはじめ相談ができるFPの存在も今回をきっかけに伝えていきたいです。
 
interviewer:山中伸枝(やまなか のぶえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)
株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 
Photo:新美 勝(にいみ まさる)

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