更新日: 2019.05.17 その他相続

高齢者の再婚で気をつけないといけない「争族問題」 ポイントは遺言の限界を知っておくこと!?

執筆者 : 竹内美土璃 / 監修 : 竹内裕詞

高齢者の再婚で気をつけないといけない「争族問題」 ポイントは遺言の限界を知っておくこと!?
高齢者でなくとも50歳を超えて再婚する場合、前妻の子どもたちと再婚する相手との間で起こる問題が考えられます。
 
「争族問題」です。
 
この問題を解決する方法として今注目されているものが「家族信託」です。遺言や後見を補完するしくみとして注目されている「家族間の信託」について、事例を踏まえてお話します。
 
竹内美土璃

Text:竹内美土璃(たけうち みどり)

CFP(R)認定者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、企業年金基金管理士、さくら総合法律事務所・FP部門、確定拠出年金相談ねっと認定FP。
FPでありながら、ある時は夫婦問題カウンセラー、ある時は相続アドバイザーとなり、「お金と気持ちを一気に解決」することを得意とする。
法律事務所で13年間勤務して得た知識と、5年間のファイナンシャルプランナーとしての実績で、「お客様を幸せで豊かな未来へ導く案内人」として定評が高い。
1972年生まれ。愛知県豊田市出身。現在は、名古屋市在住。

竹内裕詞

監修:竹内裕詞(たけうち・ゆうじ)

弁護士

1993年愛知県弁護士会登録。
弁護士として25年の経験を元に、地元企業の顧問弁護士として、契約、債権回収、労務など事業活動に関する相談を得意とする。また、遺言、家族信託を利用した事業承継、財産承継にも取り組んでいる。
依頼者の話を注意深く聴き、依頼者の希望は何なのかを掘り下げて、解決策を考えることを常に心がけて相談に当たっている。
1966年生まれ。愛知県名古屋市出身。現在は、名古屋市在住。
http://www.sakura-sogo.jp/

信託とは何ですか?

信託とは、「財産を持っている人(委託者)が、自分が信頼する人(受託者)に財産を託して、定められた目的(信託目的)にしたがって財産を管理・処分してもらい、財産から得られる利益を定められた人(受益者)へ渡す仕組み」のことです。
 

高齢の再婚で起こったこと

〇人間関係の整理

Aさんはマンションを10棟持っている不動産オーナーです。おしどり夫婦として有名だったAさん夫婦でしたが、5年前に突然前妻を亡くし、悲しみに暮れて生活していました。Aさんの気分転換になるようにと、一人息子Cさんは社交ダンスを習うように勧めました。Aさん自身最初は嫌々でしたが、社交ダンスを習うことにしました。
 
半年くらいすると、友達もでき、ダンスも楽しくなってきました。その中で特に、社交ダンスのパートナーである10歳年下のBさんと知り合い、ダンス教室の後に食事に出かけるようになり、やがてBさんに恋心を抱くようになりました。
 
Bさんも10年前に夫と離婚し、現在は独身でしたので、お互い独り身です。「これからの人生、Bさんと共に生きて行きたいので再婚したい」とCさんに話しました。Bさんのおかげで、ふさぎ込んでいた父が元気になったことを喜び、Cさんが賛成してくれましたので、結婚することになりました。
 
現在、AさんとBさんは再婚し、先祖代々受け継いだ自宅で生活しています。AさんとBさんの間に子どもはいません。CさんとBさんとは、養子縁組をしていません。Bさんは前夫との間に子供はいません。Cさんは既に成人し、社会人として生活しています。
 

 

〇Aさんの希望

Aさんは、自分が死んだ後もお世話になったBさんに自宅で生活してもらいたいと考えています。ただ、Aさんは先祖代々受け継いだ土地を守っていかなければいけないと思っています。幸いBさんとの間に子供がいないので、Bさん死後は、自分の子どもであるCさんに継いでもらいたいとも思っています。
 

〇CさんはBさんの相続人ではない!

BさんはCさんと養子縁組をしていないため、BさんにとってCさんは相続人ではありません。遺言を書いてBさんに自宅を相続させると、Bさんが死んだ後、Cさんは先祖から受け継いだ自宅を相続できません。Bさんの妹が相続人となり、自分の長男Cに引き継ぐことができないため、どうしていいか悩んでいます。
 

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遺言の限界

自分の死後、自分が残した財産(遺産)を特定の人に渡したいときに利用するのが遺言です。遺言を作成しておけば、遺産は遺言で決められた人に承継されることになります。
 
しかし、さらにその次に特定の人に承継させるということまで遺言で実現することはできません。例えば、「自分が死んだときには自宅を妻Bに相続させる」という遺言は有効ですが、「自宅を相続した妻Bが死んだときには自宅は妻Bから長男Cに引き継がせる」と遺言をした場合の有効性には争いがあり、無効とする考えが有力です。
 
このように自分が死んだ後の財産の承継者だけでなく、その後の承継者も定める遺言の条項は「後継ぎ遺贈」と呼ばれていますが、2番目以降の承継者を定めた部分は単に遺言者の希望を伝えただけで、法的な拘束力はないとする説が有力なのです。
 
信託を利用すれば、受益権を条件や期限を付けて次々に移していくことができますので、遺言を利用した場合のように有効性や実現性に問題が生じることなくAさんの希望を叶えることができます。
 

信託による解決方法でスッキリ!

Aさん一家も家族間信託を使います。
 
まず、長男Cを受託者にして自宅を信託で譲渡します。Aさんは自分が生きているうちは自分自身を受益者、Aさんが死んだ後は妻Bさんを受益者と定めます。そしてBさんが自宅を利用する権利を設けておき、Aさんが死んだ後もBさんが生活できるようにしておきます。
 
その後、妻Bさんが死んだ時信託が終了し、残余財産の帰属先をCさんにしておけば、Cさんのもとに先祖代々の土地が戻ることになります。
 
よって、信託により、BさんはAさんが死んだ後も引き続き自宅に住むことができ、Bさんが死んだ後はCさんが自宅を引き継ぐことができました。Aさんの悩みは解決できました。
 

まとめ

信託では、委託者が亡くなった後も、財産が信託目的に従って管理処分されます。よって、遺言では実現できなかった財産承継を実現することができます。
 
また、弁護士などの専門家を信託監督人や受益者代理人に選任することで、受託者であるCさんに適切に任務を行わせることも可能です。そうすることで、受益者の権利を守ることもできますから、委託者にとって安心です。
 
Text:竹内 美土璃(たけうち みどり)
CFP(R)認定者
監修:竹内 裕詞(たけうち・ゆうじ)
弁護士

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